いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「活版印刷三日月堂 小さな折り紙」ほしおさなえ(ポプラ文庫)

小さな活版印刷所「三日月堂」。
店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった言葉――。
日月堂が軌道に乗り始めた一方で、金子は愛を育み、柚原は人生に悩み……。そして弓子達のその後とは? 三日月堂の「未来」が描かれる番外編。


過去の短編集「空色の冊子」と対になる、未来の短編集「小さな折り紙」。本編(4巻まで)の登場人物たちのその後が描かれる。
何というか、なかなかにくい作りだった。
前半三編では「三日月堂でこういうことがあったね」という思い出話が出てくるだけで、三日月堂も弓子も出てこない。本編後の三日月堂が、弓子と悠生がどうなったのか、知りたいのはそこなのにとヤキモキさせられる。なので、四編目からようやく出てくる情報に一喜一憂してしまう。仕事が軌道に乗ったことだとか、結婚式がどんなだったとか、良い報告に少しずつ安堵感が広がっていく。
また、三日月堂に関わってほんの少しの幸せを掴んだり、人生が好転したり人たちのその後を追った物語なので、笑顔で読めると思っていたのだけど、結局今回も泣かされた。早くに親や親族を亡くしている人が多く、その別れを乗り越えた話題が入ってくるからだろう。
そんな、よく泣かされ、沢山の救われる言葉を貰ったこのシリーズの集大成の様だったのが、弓子もお世話になったあけぼの保育園の園長が主人公の最後の一編「小さな折り紙」。
義母から現園長へ、現園長から娘へと園長という役職だけでなく、想いを託し繋いでいく園の姿が、技術を後世に伝えること、それと活版印刷の根源の目的である文字を後世に残すことにも繋がっているような気がして、このシリーズの未来を語る物語のラストになんてピッタリなんだろうと、しばらく感動に浸っていた。
明文はされていないけど流石にこれで完結かな。気持ちよく泣けて、その後優しい言葉で少し心が軽くなる、そんな沁みる物語。出会えてよかった。