いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「午前3時33分、魔法道具店ポラリス営業中」藤まる(PHP文芸文庫)

夜ごと枕元に現れる鍵束と、繰り返し見る悪夢に悩まされている大学生の遠野晴貴。困った末に彼が辿り着いたのは、「不思議現象を解決してくれる」と噂の骨董店。そこは、同じ大学に通う、美人だが無愛想な女子大生・月城環が営む店だった。彼女は、鍵束の正体を突き止めるため、「午前三時」にお店に来るよう晴貴に告げるが……?
孤独に苦しむ男女の成長を描いた、号泣必至の現代ファンタジー


不思議な現象を起こし、日々の生活を脅かすこともある魔法道具。その魔法道具が持ち込まれる骨董屋『ポラリス』の物語。
魔法道具=死にゆく人の強い想いを宿してしまったもの。全部がそうではないようなのだけど、この話に出てくる魔法道具はすべてこのタイプ。そんな魔法道具とポラリスの店主・環を通じて、死者が生前に語れなかった想いや遺したものの真意を知る、切なくも優しい物語だった。
……というのが話のメインだと思うのだけど、個人的に押したいのはもう一つの側面。
この話は、左手で相手を触ると心が読めてしまうゆえに怖がられてぼっちな魔女・環と、左手で相手に触れると内心が伝わってしまうゆえに嫌われてぼっちな青年・遠野のボーイミーツガールでもある。
と、書くと重そうだが、二人のやりとりは軽くて甘い。
遠野の基本ヘタレだけど思い切ると行きすぎちゃう感じと、環の刺々しい口調とは裏腹のにじみ出る嬉しさ。二人してぼっちゆえの人との距離感の掴めてなさが、何とも微笑ましい。照れ隠しという名の軽口悪口の言い合いは、傍から見ている分にはイチャついてるようにしか見えない。
そんなぼっちな二人が、依頼者たちの人生や死者の優しさに触れ、閉ざしていた心を開いていく過程がまた良い。
人の機微が味わえた上で、可愛らしい大学生カップル(未満)の初々しさで2度おいしい物語だった。