いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Unnamed Memory IV 白紙よりもう一度」古宮九時(電撃の新文芸)

「私と結婚してくれるんですか!」
「しない。どうしてそうなった」
呪いの打破を願って魔法大国トゥルダールを訪れたオスカーは、城で眠っていた一人の女を連れ帰る。解呪を申し出た彼女ティナーシャは、次期女王として圧倒的な力を持ちながら、なぜか初対面のはずの彼に強い好意を抱いているようで……。
新たになった大陸の歴史、名もなき記憶の上に、再び二人が紡ぐ一年間の物語が始まる。


オスカーが飛んだ先の世界の歴史が紡がれる、第二部スタート。
ずっと、ハラハラさせられっぱなしの440ページだった。
白紙になった以前の世界との大きな変化と小さな変化が、少しずつ示されていくストーリーに目が離せないのだが、特に気になるのは小さな変化の方。
亡くなったはずの人物が生きていたり、同じ人物でも少し立場や人間関係が変わっていたり。それによってこの後の運命が変化しそうな予兆がそこかしこに散りばめてあって、どれも不穏な伏線に思えてしまう。これから二人はどれだけの試練を課せられるのか。
そしてもちろん、最もハラハラとソワソワさせらられたのが、オスカーとティナーシャの新たな関係。
素の性格は変わっていないのに、攻守が交代している。愛情表現が下手なティナーシャが押す側に回ったら、それはもう……。
それだけでもハラハラする要素としては十分なのに、新たな世界になって一番変わったのはティナーシャの年齢なのが、それに拍車をかける。
400年生きてきた前の世界のティナーシャと違い、400年寝ていたティナーシャは中身と見た目がイコールで、言動が普通に十代の少女。求婚する側もされる側も年齢に応じた余裕がある「大人の恋」だった前の歴史とは、印象がまるで違う。こちらのトラヴィスがよくちょっかいをかけてくるのも、ティナーシャが若いからだろう。四百うん歳と違って19歳はからかい甲斐がありそうだもの。
ずっと固唾をのんでティナーシャを応援していたような読書時間だった。そうしてみると、第一部はオスカーの物語だったんだなと。それでも、訝しみながらも態度が軟化しいくオスカーの様子に次第にホッとしていけたので、次はもっと二人の甘いやり取りを楽しめる?
世界の謎に二人の関係、気になることがいっぱいで次が待ち遠しい。