いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「隣のキミであたまがいっぱい。」城崎(MF文庫J)

同じクラスになった如月は、『他人の思考が読めてしまう』らしい。
この『読めてしまう』と『読める』の差は大きく、自分の意思にかかわらず常に他人の考えていることが聞こえてくるのには、彼女もうんざりしているという。まあだからといって同情はするが、俺に出来ることなんてない。そう思っていたんだが……。どうやら俺の隣にいると、彼女の力は俺だけに限定されて、静かで落ち着くらしい。だからって、距離感おかしくないか!? いやべつに、俺は美少女がそばにいるからって、ドキドキなんかしていないから!!
――そう、今日もまた俺は彼女に思考を読まれている。

第4回web小説コンテスト特別賞


他人の思考が読めてしまう少女と、自分の思考以外を読みとれないように出来る少年の物語。
思考を読まれる方も読んでしまう方も辛い、この重い設定でよくラブコメに仕上げたなと感心しきり。
小悪魔的な彼女とヘタレな彼の会話劇という定番のシチュエーションながら、何があっても彼女を邪険に扱わない彼の優しさと言葉とは裏腹な彼女の必死が、この設定によって強調されるので、甘酸っぱさが増し増し。
特に彼女の方は、章末の一話の本人の視点で、降って湧いた幸運を手放したくないが本当に迷惑なら離れなければと思う優しさのせめぎ合いから、彼の人柄に惹かれていく様子、彼の気持ちが自分に向かないもどかしさと、変化の過程が読めるのが嬉しい。
ただ問題が一つ。
それは前後の話との繋がりが無い話が突然出てきたり、前置きが飛ばされて意味不明だったり、置いてけぼりになる話が時々出てくること。カクヨム発なので話がある程度ぶつ切りなのは仕方がないと思えるが、それにしてもストーリーラインが美しくない。
短話でどんどん上げていかなければならない辛さはあるけれど、書きたいエピソードだけ書ければ、全体的な話の流れを考えなくても一冊分書けてしまうのはネット小説の弊害の一つかな。でもまあ、昔の新人賞作も書きたいシーンだけ良くて後はぐちゃぐちゃなんて作品はいくらでもあったから、時代が変わって応募方法が変わっただけという話かもしれない。