いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「イマジン?」有川ひろ(幻冬舎)

想像力は、あるかい?
憧れの映像制作の現場に飛び込んだ、良井良助(27歳)。聞き慣れない業界用語が飛び交う現場に戸惑う日々だが、そこは現実と物語を繋げる、魔法の世界だった。
「必死で知恵絞って想像すんのが俺たちの仕事だ」
やがて良助は、仲間たちが作品に傾ける熱意に、焦がれるような思いを募らせていく――。
走るしか能のない新米、突っ走る! 行き先は、たぶん未来。


映像制作会社に拾われたフリーターの青年の成長と恋愛の物語。映像系の仕事を夢見て上京した青年・良井を通じて、映画・ドラマ制作の裏側を知れるお仕事小説でもある。

読みやすくてスルッと入ってくるこの感じ、久しぶりでもやっぱり有川先生だ。
お金も時間も上下関係も厳しく、理不尽ばかりが降りかかってくる現場で、何度現実を突きつけられも、失敗を繰り返しても、自分の夢見た世界で仕事をしている喜び全身で表しているようなイーくんの仕事ぶりに、陽の気が溢れていた。なにより自分の中の正義を貫こうとする姿勢が作者のキャラらしくて良い。これが心の引っかかりがない心地よい読後感に繋がってるのだろう。
またこの作品、有川ファンには「おっ」と思う事が多い嬉しい作りになっている。
まんまタイトルまんまな内容の第一話『天翔ける広報室』からスタートし、その後の関係なさそうなタイトルでもちょっとしたエピソードに有川作品の欠片が見えるので、度々顔がニヤけてしまう。
そして第四話では先生本人らしき人まで登場。ここでは、エッセイ集も読んでいるとさらに楽しめるエピソードが。こうなるとエッセイで映像化のエピソードが一番多かった(と思う)『旅猫レポート』が欲しかったところだが、出版社が違うから駄目だろな。
作者が自作の映像化の時に、見たこと感じたことが一つの形になったのであろう一冊。リアリティの中に作者らしい色と理想があって、相変わらず愛すべきキャラクターが沢山いて、今作もとても面白かった。