いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「巴里マカロンの謎」米澤穂信(創元推理文庫)

「わたしたちはこれから、新しくオープンしたお店に行ってマカロンを食べます」その店のティー&マカロンセットで注文できるマカロンは三種類。しかし小山内さんの皿には、あるはずのない四つめのマカロンが乗っていた。誰がなぜ四つめのマカロンを置いたのか? 小鳩君は早速思考を巡らし始める…心穏やかで無害で易きに流れる小市民を目指す、あのふたりが帰ってきました!


小市民シリーズ、11年ぶりの新刊。
物語は九月(1話目)に出会った年下の少女と、彼女の父が営むスイーツ店を話の軸とした四編の短編集。いつもの長編と違って、季節が移ろっていく。

秋限定の下巻から11年も経ってるの!? 時の流れのなんと早いことか。オソロシヤオソロシヤ
久しぶりにこの二人が読めたのことが単純に嬉しい。
どんな小さな謎にも食いつく好奇心と、理詰めで回りくどく攻めながら真実に辿り着く確かな嗅覚を持つ小鳩君。対人関係は基本ドライなのに自分に害が及ぶ時のシャープな切れ味が恐ろしい、甘味モンスター小山内さん。小市民を目指す、小市民からかけ離れたいつもの二人だった。
そして何と言っても、微妙で絶妙な二人の関係性。
お互いの性質は熟知していて、妙なところでは言葉を介さなくても通じ合ってしまうのに、パーソナルな部分では長く一緒にいる割にあまり理解がなく、言葉もすれ違うちぐはぐな二人。互恵関係というなんとも言えない距離感が、笑いと甘さと苦さを内包している。
久しぶりに出た勢いで冬期限定が早々に出版ってことは……ないですかね?




以下各話毎 (ネタバレ含む)



巴里マカロンの謎
内容:小山内さん、小鳩君を誘って名古屋にオープンしたスイーツのお店へ。
そっちかー。パティシエのネックレスに言及しているのと新たに出す店の店長と店名で、不倫の話なのは早々にわかったが、犯人とその境遇は少々予想外。
誰かの思惑に乗るのが嫌って言い張る時点で小市民からはかけ離れてますからね、小山内さん。



紐育チーズケーキの謎
内容:1話目に出会った少女・秋桜に誘われ中学校の文化祭へ。
全て理解した上で、90秒であれを用意したのか。小山内さんの恐ろしさが際立つ。これは憧れのお姉ちゃんから畏怖の念を感じてしまっても仕方がない。
この蒸し焼きチーズケーキが一番美味しそうだった。今度作ってみようかな。3月にはお菓子作らなきゃならないだろうし。



伯林あげぱんの謎
内容:激辛あげぱんを食べたのは誰?in新聞部
開始数ページで読者には犯人がわかり、その後苦笑いと共に小鳩君の推理の過程を読む、このシリーズでは珍しいタイプの一編。食い意地に罰が当たったのか、普段の他人への仕打ちに罰が当たったのか。
相変わらず小鳩君の説明は丁寧でわかりやすいけれど、犯人が分かっている状態だと回りくどくて焦れるね。こちらは小鳩君が小市民からかけ離れていることが如実に出た話。



花府シュークリームの謎
内容:秋桜が濡れ衣で停学に。真相の究明を頼まれた二人。
「ひらけゴマ」はズルいわーあざといわー。
加害者の動機も先生の態度も、かなり胸糞悪い。事の顛末ははっきり語られないことが多いシリーズだけど、この話に限っては奴等がやり込められた様子が欲しかったな。
それでも、雨降って地固まった親子と(珍しく)かわいい小山内さんで読後感は最高。