いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「七つの魔剣が支配する V」宇野朴人(電撃文庫)

勉強と鍛錬を重ねて己を高めつつ、時には後輩たちを相手に頼れる先達としての一面も見せ始めるナナオたち。困難を増す魔法生物学の課題でグリフォンと格闘し、新たに加わった天文学の授業では、『異界』と『異端』についての過酷な現実を教わる。
そんな中、迷宮に連れていかれたピートを追ってエンリコの研究所に辿り着いたオリバーとナナオ。彼らはそこで恐るべき魔道の深淵と、長きに亘る魔法使いと『異端』の対立の一築を垣間見る。一方で、次の仇討ちの相手をエンリコに定め、オリバーは同志たちと共に戦いの段取りを詰めていく。刻々と迫る決戦の時。彼のふたつ目の復讐の行方は――。


久しぶりの本題、ようやく二人目のシリーズ第5巻。
そういえば母の仇であるキンバリー教師陣への復讐劇がメインストーリーだった。忘れていたわけではないけれど、どうしても刺激的な学園生活の方が目が行ってしまうので、影が薄くなりがち。
今回はこれが本題だと主張するかのように、1巻冒頭以降はあまり情報が出ていなかったオリバーの母・クロエの為人がじっくりと語られる。それと同時にオリバーの復讐への原動力と、絶対強者に対抗する手段も。
そのオリバーの対抗手段も状況も予想以上に救いがなかった。肉を切らせて骨を断つどころか、骨と肉を切らせてようやく肉を切れるくらいの捨て身技じゃないか。しかも、もし目的を果たせても、その行き先に救いがありそうにないのがまた辛い。
おまけに、クロエの過去語りに同じくらいエンリコの悲しい思い出語りがあって、怨敵を十全には憎めないストーリーになっているのが憎らしい。どこまで悲劇を重ねていくのか。
現代でも過去でも、救いようがない魔法使いたちの生き様を見せつけられた回だった。前作『天鏡のアルデラミン』に続いてこのシリーズも容赦のない物語になりそうだ。
第2の復讐劇の裏で、シエラ父のナナオへの執着とナナオとクロエの共通点が語られていたので、ナナオがこの復讐劇のキーパーソンなのは間違いなさそう。さて、どんな役割を果たすのか。オリバーの救いや望みになればいいが……。