奨励会三段リーグ。
四段(プロ)になれる者は2人だけという苛酷な戦場。そこに史上初めて女性として参戦した銀子は、八一と交わした約束を胸に封じ、孤独な戦いを 続けていた。八一もまた、新たなタイトルを目指し最強の敵と対峙する。
そんな2人を複雑な思いで見守るあいと、動き出す天衣。そして立ちはだかる奨励会員(なかま)たち。
「プロになるなんて、そんな約束をすることはできない。けど――」
大切な人の夢を踏み砕くことでしか夢を叶えられない。それが将棋の世界で生きるということ。
銀子が、創多が、鏡洲が……純粋なる者たちの熱き死闘に幕が下りる奨励会編堂々のフィナーレ!
八一と銀子の急接近であいちゃんのヤンデレ化を予想していたら、意外なことに桂香さんがぶっ壊れた。
出葉亀おばちゃん→やさぐれ→修羅と、三段階でキャラ崩壊していく姿にくっそ笑った。桂香さんのキャラを破壊させ、自称悪役を破顔させる恋する乙女パワー恐るべし。表紙からして強すぎるもんなあ。この表紙だけでご飯三杯はいける。
それにしても、あいはどうした? 天衣はらしく反撃の一手を繰り出していたが、あいはこれといったアクションがなく存在感が希薄。このままでは二番手も危うい。
そんな決着間近の本妻レースの話はこれくらいにして、本題「奨励会三段リーグの決着」の話をしよう。
唯一の女性(銀子)、小学生、崖っぷちのベテラン勢、復帰の大ベテラン。多くの視点から、それぞれの地獄が語られるまさに修羅の国の物語だった。どれもこれも常人には経験できない本気度が伝わってくるエピソードで、胸が熱くなる。
その中で、自分がいい年とあって、どうしても肩入れし感情移入してしまうのはベテランたち。どんなにプレッシャーがかかっても「自分らしく」あり続けようとする鏡洲の姿。諦めの境地から自分の将棋人生を見つめ直す坂梨。汚い盤外戦術も厭わない辛香の本性。特に鏡洲のエピソードは彼を気遣う周りの反応に彼の誠実さと人の良さが出ていて、涙腺を刺激してくるものばかりで困る。
誰もが極限状態だからこそ本性が暴かれ、本心が出る。人間の内面が研ぎ澄まされた、恐ろしくでも最高の人間ドラマだった。今回も熱く、面白かった。
プロの方では帝位戦が始まったので、次からは本格的に主役の出番かな。ここ数巻、存在感が全然ないあいにもそろそろ出番がある?