いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「りゅうおうのおしごと!12」白鳥士郎(GA文庫)

奨励会三段リーグ
四段(プロ)になれる者は2人だけという苛酷な戦場。そこに史上初めて女性として参戦した銀子は、八一と交わした約束を胸に封じ、孤独な戦いを 続けていた。八一もまた、新たなタイトルを目指し最強の敵と対峙する。
そんな2人を複雑な思いで見守るあいと、動き出す天衣。そして立ちはだかる奨励会員(なかま)たち。
「プロになるなんて、そんな約束をすることはできない。けど――」
大切な人の夢を踏み砕くことでしか夢を叶えられない。それが将棋の世界で生きるということ。
銀子が、創多が、鏡洲が……純粋なる者たちの熱き死闘に幕が下りる奨励会編堂々のフィナーレ!


八一と銀子の急接近であいちゃんのヤンデレ化を予想していたら、意外なことに桂香さんがぶっ壊れた。
出葉亀おばちゃん→やさぐれ→修羅と、三段階でキャラ崩壊していく姿にくっそ笑った。桂香さんのキャラを破壊させ、自称悪役を破顔させる恋する乙女パワー恐るべし。表紙からして強すぎるもんなあ。この表紙だけでご飯三杯はいける。
それにしても、あいはどうした? 天衣はらしく反撃の一手を繰り出していたが、あいはこれといったアクションがなく存在感が希薄。このままでは二番手も危うい。
そんな決着間近の本妻レースの話はこれくらいにして、本題「奨励会三段リーグの決着」の話をしよう。
唯一の女性(銀子)、小学生、崖っぷちのベテラン勢、復帰の大ベテラン。多くの視点から、それぞれの地獄が語られるまさに修羅の国の物語だった。どれもこれも常人には経験できない本気度が伝わってくるエピソードで、胸が熱くなる。
その中で、自分がいい年とあって、どうしても肩入れし感情移入してしまうのはベテランたち。どんなにプレッシャーがかかっても「自分らしく」あり続けようとする鏡洲の姿。諦めの境地から自分の将棋人生を見つめ直す坂梨。汚い盤外戦術も厭わない辛香の本性。特に鏡洲のエピソードは彼を気遣う周りの反応に彼の誠実さと人の良さが出ていて、涙腺を刺激してくるものばかりで困る。
誰もが極限状態だからこそ本性が暴かれ、本心が出る。人間の内面が研ぎ澄まされた、恐ろしくでも最高の人間ドラマだった。今回も熱く、面白かった。
プロの方では帝位戦が始まったので、次からは本格的に主役の出番かな。ここ数巻、存在感が全然ないあいにもそろそろ出番がある?