いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「幽霊たちの不在証明」朝永理人(宝島社文庫)

羊毛高校文化祭の二日目の午後、二年二組のお化け屋敷で、首吊り幽霊に扮していたクラス委員・旭川明日葉の絞殺死体が発見された。彼女に想いを寄せていた「僕」こと閑寺尚は、打ちひしがれながらもその仇を討つべく、クラスメイトの甲森瑠璃子とともに調査に乗り出す。幽霊役の彼女はいつ本物の死体になったのか。分刻みの“時間当て”で犯人を絞り込む本格フーダニット・パズラーの傑作!

第18回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。



文化祭のお化け屋敷で起こった殺人事件の真相に、クラスの日陰者二人で迫る学園ミステリー。
と言いつつ、語り部の閑森くんは自称陰キャで日陰者感ゼロなのだけど。
というのも、事件が起こる「非日常編」では、容疑者たちの行動と時間経過をはっきりさせる必要もあって、文化祭の高校生たちの様子が閑森くんの視点で事細かに描写されるのだけど、これが色恋にバカ騒ぎにと非常に青春色が濃い。閑森少年は、多くのクラスメイトに話しかけられ(ほとんど女子)、文化祭のあちこちの展示に顔を出しと文化祭を謳歌している。そりゃあ、もう一人の陰キャ(こちらはガチ)探偵役の甲森さんに白い目で見られるよ。
ここまではライトノベル的な面白さ。
一転して、調査編から解決編まではミステリとしての面白さが光る。
実地調査と聞き取り調査であらゆる可能性を探り、無理なものを一つ一つ潰していくフェアで丁寧な作りに好感が持てる。特に解決編では、事件のキモである被害者が亡くなった時間を突き詰めていく過程を、数学的な論法で分かりやすくロジカルに推理されていくので、引っかかりは無いし説得力も十分。
と、そこまではどこの描写も緻密で面白かったのだけど、、、
なんだこの、解決編後のあっさりでモヤっとな終わり方は。
鮮やかな解決編の雰囲気をぶち壊す探偵役の甲森さんの愚痴はまだいいが、その後のクラスや学校の様子の描写が異常なまでに薄いし、身勝手な殺人犯が同情されている状況は意味不明。それ以上に腑に落ちないのが、5分間も人の首を絞めていられるとは到底思えない弱い動機。そこまでとても丁寧に作られてきたのに、トリックの解説が終わった途端に飽きて投げ出してしまったように思えた。
青春小説として面白く、ミステリとしても面白いのに、最後の最後でずっこけた。人死にが出る話なので元々爽やかな読後感にはならないだろうが、それとは違う後味の悪さ。解決編までは気持ちよく読んでいただけに余計にそう感じる。
甲森さんの愚痴を俺も言いたい「こんなオチ、ひどいですよ」