いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~」陸道烈夏(電撃文庫)

《フウ》――最下層の孤独少女。友は小鳥のアサと、ジャンク屋の片隅で見つけた、古いラジオのみ。
《カザクラ》――マイペースな腹ぺこガール。出会った瞬間からフウを「お兄ちゃん」と慕い、陽気な笑顔でつきまとってくる。
そんな二人が出会ったここは、世界にただ一つ残るヒトの国。異形の怪物たちが支配する果てなき砂漠の真ん中で、ヒトビトは日々の貧苦を喜びとし、神の使いたる王のために生きねばならない――。だが、彼女たちが知る世界は、全部大ウソだった。たくさんの知恵と一握りの勇気を胸に。今、《世界一ヘヴィな脱出劇》が始まる。
第26回電撃小説大賞《銀賞》受賞作。
風の名を持つ、二人の少女の物語。


ディストピアを力強く生き抜く少女たちの物語。
何も知らない孤独な少女から、ラジオと本で知識を得て、友人を得て、戦う力を得て……と、一つ一つ段階を踏みながら、不条理な世界で生かされているのではなく、自分として生きる術を掴み獲っていく。そんな知識を得ることの大切さと生への渇望をパワフルに描いた作品だった。
雰囲気はかなり好き。但し、引っ掛かりを覚えることが多いので、改善の余地は大いにあるなと。要するに良くも悪くも新人賞らしい作品という印象。
良い点は、キーアイテムがラジオで冒険あり機械兵あり成り上がりあり女の子たちの友情ありと、男の子心を刺激してくる要素テンコ盛りなところ。そんな好きなものを詰め込んだ作品でありながら、ストーリーを破綻することなく最後まで書ききっているのは見事。おかげで多くのシーンでワクワクさせてくれる。
一方悪い点は、主人公が知識を得る過程が無かったり、チオウという国の組織がちぐはぐだったり、説明不足というかあちこちにディテールの甘さが目立ち、話の展開がご都合主義に感じてしまうところ。
大賞金賞作品に比べると完成度という点では大きく落ちる。しかしスケールが大きくて伸びしろがあり、最も化けそうなのはこの作品。過去、長期連載作やアニメ化作品を産んできた、電撃小説大賞《銀賞》に相応しい作品だったと言えるだろう。