いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「きのうの春で、君を待つ」八目迷(ガガガ文庫)

夕方6時のチャイム“グリーンスリーブス”が流れ、カナエの意識は時間を跳躍する――。東京からかつて住んでいた離島・袖島に家出してきた船見カナエは、時間を遡る現象“ロールバック”に巻き込まれる。乱れた時間のなかで、2年ぶりに再会したカナエの幼馴染である保科あかりが、彼にあるお願いをする。「お兄ちゃんを、救ってほしい」。ロールバックを利用し、数日前に亡くなったあかりの兄・彰人を救うため奔走するカナエ。しかし時間を遡っていくうちに、あかりの秘密が明らかになり……。甘くて苦い二人の春が始まる。


前作『夏のトンネル、さよならの出口』に続き、今度は春のタイムリープSF青春小説。鬱屈した少年が不思議な体験を経て前向きになるコンセプトも同じ。
タイムリープ現象に翻弄されながら、悩み苦しみ考え抜く主人公・カナエの姿と、ちぐはぐな行動と間章で明かされていくあかりの真意。もう子供じゃないから悩み、まだ大人じゃないからままならない、高校生だからこその苦悩がほろ苦い、良い青春小説だった。
しかし“SF”青春小説として面白いかというと、微妙だ。
一日過ぎると二日戻る、実質記憶を持ったまま一日ずつ遡っていく仕組み自体は面白かったけれど、それが物語の面白さに繋がっている気がしない。タイムリープが主人公の悩む/考える時間を作ることくらいにか使われていないので、これなら少し弄ればSF要素なしでも成り立つストーリーが出来そうだと、身も蓋もないことを思ってしまった。
なので、メイン二人の想いとタイムリープの仕掛けがリンクしてた前作と比べると、SF青春小説としての面白さは一枚二枚落ちる。前作はオチがしっくりこなかったこと以外は傑作だと思っているので、それと比べるのは酷なのかもしれないが。
青春小説としては悪い話ではなかったが、SFの期待が大きかった分がっかり感が強い。