いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「小説の神様 わたしたちの物語 小説の神様アンソロジー」(講談社タイガ)

「小説は好きですか?」わたしたちはなぜ物語を求めてくるのか。新作を掛けずに苦しむ作家、作家に憧れる投稿者、物語に救われた読者、作品を生み出すために闘う編集者、それを届けてくれる書店員……わたしたちは、きっとみんなそれぞれの「小説の神様」を信じている。だから物語は、永遠だ。当代一流の作家陣が綴る、涙と感動、そして「小説の神様」に溢れた珠玉のアンソロジー


作家、作家志望、書店員、編集者、読者。本に関わる人がそれぞれに「小説の神様」に願い見出そうとする、小説好きたちの物語。
半分以上は『小説の神様』のアンソロジーというよりは、本編と直接関係ない「小説の神様」がテーマの短編だった気がするが、珠玉のアンソロジーの名の恥じない極上の短編揃い。
探しても見つからない、願っても叶えてくれない。小説の神様のなんと厳しく意地の悪いことか。でも好きだからどんなに苦しくても諦めない。そんな強烈な「好き」が詰まっていた。
それと同時に、小説が大好きだけど好きのまま/好きなだけではいられないままならなさは、小説とどう関わっていても突きつけられる難題であるな、とも。



以下各話事



イカロス」降田天
内容:大学生女性作家の苦悩
新人作家の現実を突きつけられ、打ちのめされる一話。
こうやって新人作家は壊されていくんだな。そして魔改造が奇跡的に成功する極一部と、そこで我を通しても売れる極々一部だけが生き残っていくと。厳しい世界だ。
作家人生はどうなるかわからないけれど、彼女が好きを取り戻せて本当に良かった。



「掌のいとしい他人たち」櫻いいよ
内容:かつて小説が好きだったバイト書店員の後悔
ブログでレビューを書いている自分には耳が痛く刺さる話だった。
自分も林藤さんと同じで「わたしの気持ちとは関係ないじゃない」と思う方なのだけど、世の中にはそう思わない人がいっぱいいて、その中に自分がすべて正しいと思って他人に突っかかる人が少なからずいるのが現状なのよね。



「モモちゃん」芹沢政信
内容:スランプ気味の作家を目指す少女の不思議な出会い
本アンソロジー中、最も優しい神様。他が厳しいとも言うが。
マチュアが初期衝動を忘れてテクニックに走ったら終わりだよね。それなら他に上手い人がいくらでもいるのだから。



「神様への扉」手名町紗帆
内容:入学したての成瀬の話(漫画)
好きのものを堂々と好きということ。九ノ里くらいになると気にせず言えるんだろうけど、陰キャには相当ハードルが高い。特に成瀬ちゃんには苦い思い出があるから。
九ノ里のラノベ押しポイントに何が書いてあったか知りたい。



「僕と“文学少女”な訪問者と三つの伏線」野村美月
内容:とある“文学少女”に出会う一也と成瀬
原作者と漫画を除くと唯一原作キャラが出てくるアンソロジーらしいアンソロジー
野村先生の新しい物語を読めただけで嬉しいのに、それにあの人が出てきたら嬉しさは二倍か三倍か。幸せな時間でした。
彼女なら誰かの「小説の神様」になりそう。いや「小説の女神様」か。



「神の両目は地べたで溶けてる」斜線堂有紀
内容:読書好きな男子と、ある作家に入れ込む女子
続刊や次作を神様に願いたくなる気持ちも、好きを共感したい語り合いたい気持ちも痛いほどわかる。
でも、それを他人の強要する岬の行動はいただけない。舞立少年はよく受け入れられるなあ。俺なら確実にブチ切れてる。



「神様の探索」相沢沙呼
内容:『小説の神様』編集者視点
誌凪と一也がもがき苦しんでいた裏で、編集の河埜さんもこんなことになっていたのか。
ここまで苦しい思いをしてまで一つの物語を世に出したい、誰かに伝えたいと想い続けて実現するエネルギーはいかほどか。こんなこと好きじゃなきゃ出来ない。



「『小説の神様』の作り方――あるいは、小説家Aと小説家Bについて」紅玉いづき
内容:『小説の神様』を書き上げたAを見守るB
原作者より後に載る意味はそういうことか。と、納得せざるを得ない一話。
ここまで語っちゃっていいんですか? いや、これはあくまで小説ですよね。
しかし語り部たる小説家B先生、傍若無人過ぎませんかねw 作家とはなんと面倒くさい生き物か。