一人の中にいる二人の少女、「秋玻」と「春珂」。僕は自分を助けてくれた彼女たちと、ある約束を交わした。
それは「二人に同じだけ恋する」ということ。デートで、部室で……次々と交わされる、胸を焦がすような甘いやりとりに、僕はおぼれていく。
でも……心のどこかで警報が鳴っている――このままでは、いけないと。
焦って空回った僕は、憧れの大人達と触れ合っていくなかで、いつしか理解していく。モラトリアムの終わりを。僕がするべきこと。しなければ、いけないことを。
僕と彼女と彼女が紡ぐ、切なく愛しい、三角関係恋物語。
修学旅行で茫然自失状態からなんとか脱した矢野と、二人の状態が安定してしまった秋玻と春珂の新たな関係が始まる第5巻。
矢野少年はなぜこんなにも追い詰められているのだろう。今回はずっとそう思いながら読んでいた。
目標がない、行く先が見えない漠然とした不安なら、自分でも何度も経験したことがあるし共感できる。また、自分はなったことが無くても最終学年で進路が決まらず焦る人は周りにいた。でも、差し迫った期限がない状態でここまで切羽詰まっている人には出会ったことがないので、心中を察することが出来ない。
秋玻と春珂との関係にしても、春珂のいう「二人ともに色々できてラッキー」まで誠実でクソ真面目な彼に求めるのは酷だとは思うけれど、どちらにも惹かれている自分の気持ちにすら嫌悪感を抱いてしまうのは、流石に潔癖すぎると感じてしまう。秋玻と春珂には現状なりに楽しんでいる姿が見えるので、余計にそう思う。
なんだか、明確な答えが出るわけがない問いに対して、数学みたいな絶対正解の答えを探し求めているような、問題への取り組み方がそもそも間違っているような、そんな歯痒さがずっと付きまとう話だった。
予告されていた秋玻と春珂の過去の話は、これまでの話から察することが出来る範囲で踏み込んだ話はなかったので、過去とリンクして動き始めるのは次からかな。まだモラトリアム期間だと一応納得したらしい矢野くんには秋玻と春珂をちゃんと見てほしいが、また自分の殻に閉じこもりそうな気が。次こそは恋物語になるだろうか。