いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「86―エイティシックス― Ep.8 ―ガンスモーク・オン・ザ・ウォーター―」安里アサト(電撃文庫)

〈レギオン〉完全停止の可能性。終わらぬはずの、戦争の終わり。それは人類の悲願。明日への希望。
しかし、戦士たちは――戦いが終わった先、戦場で死ぬ定めだった「エイティシックス」は、どこへゆくのか。〈シリン〉との出会いで、死を恐れぬことの不気味を知った彼らは、閉じていた未来への眼を、無理矢理に開かされた。
ある者は、愛する人を見つけた。ある者は、世界を見て夢を描いた。だが……、それが出来ぬ者は。
温かい希望の光が、彼らの鉄の意志と結束を歪め、そして。ついに、過去最悪の犠牲を生む。
平穏を許さぬ、新章開幕のEp.8! “辿り着いた海は、彼らに血を求めた。”


〈レギオン〉の第二次大攻勢の兆しありと、北のレグキード征海船団国軍に派遣されるシリーズ第8弾。

来ちゃったよ、海。
海は約束の地だと思っていたので、こんなところで出てきたのは予想外。南の海と北の海は別物ってことかな。状況的に水着は着れないしねえ。でも、来ちゃったと思ったのはエイティシックスたちも同様のようで、一部に言い様のない虚無感が漂っていた。
それでなくても今回は、エイティシックスたちへのえげつない精神攻撃が復活していたというのに。
平時では作戦で訪れた小国の人達の、懸命に生きる姿に塞がることのない心の穴が鮮明になり、作戦時では文字通りの“決死”の特攻を見せつけられ、彼らの心を揺さぶってくる。
それに加えて、未だ何の未来を見出せずにいるセオとクレアには、戦争を終わらせられるかもしれないという本来なら希望というべき可能性が、不安や焦燥となって重く圧し掛かる。まったく、どこまで彼らエイティシックスたちを追い詰めれば気が済むのか。
その極めつけは対〈レギオン〉戦。初めての海上戦という不利な状況と相変わらずの絶望的な戦力差、次から次へと出てくる新兵器。さらに突如訪れる戦術的にも精神的にも支柱なシン抜きの戦い。
シン本人は実にあっさりとした一時退場だったのでそれほど心配はしなかったのだけど、残された側の変化は劇的だった。焦り、不安、自責、自失。予想以上の戦力ダウンにハラハラ感は過去最高レベル。そんな中でのセオ独りの戦いは熱かったが……。
それにしても流石はこの世界、陸が地獄なのに海も地獄なのね。クジラが世界樹の迷宮の某クジラも真っ青な殺戮マシーンなんだけど。これで退場とはもったいない。でもまあ敵対したら絶望しかないか。
ここのところラブがコメっていたが、今回は久々に生きることの残酷さと人の醜さを突きつけるこのシリーズらしい話だった。衝撃のラストのだったので続きもきになるところ。生きているからまだ希望はあるが、逆に脳を持っていかれて最強の敵になる可能性も否定しきれないのがこのシリーズ。