いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「吸血鬼は僕のために姉になる」景詠一(ダッシュエックス文庫)

丘の上の屋敷には、盲目の吸血鬼が住んでいる。そういう噂を聞いたのは、僕がとても小さな頃だ。
唯一の肉親であった祖父を喪った僕は、件の女性、霧雨セナに引き取られた。
彼女の正体は噂通りの吸血鬼。ただし、性格は心配性でおせっかいの姉といった感じで、おまけに物理的な距離が常に近い。
そんな彼女のまわりには、一つ目の怪物、犬の郵便屋など、多種多様な生き物が溢れていて、それらが視える僕には特別な力が宿っているらしい。
未知の世界で新しい家族――吸血鬼・セナをはじめとする人外の存在と絆を深めるラブコメディ。
第8回集英社ライトノベル新人賞《銀賞》受賞作!


祖父を亡くし天涯孤独になった主人公・波野日向が、吸血鬼との噂のある女性・霧雨セナの家に引き取られる。そこで日向は波野家の秘密を知ることに――

雰囲気の良い作品だった。
主人公は悲鳴ばかり、吸血鬼お姉さんはテンパりと出だしは物語に入りにくい空気だったが、主人公が落ち着いて周りを見始めると、幻想種と呼ばれる妖怪たちの穏やかさと、気のいいクラスメイトに囲まれていて、優しく穏やかな雰囲気に包まれていた。
そんな彼らが紡ぎだすエピソードも、どれも優しさに溢れていて胸を打つ話ばかり。主人公がその都度一生懸命考えて行動しているところにも好感が持てる。
ただ、やや気になるのは駆け足気味だったこと。
幼馴染みの鬼、唯一の男友達、曾祖父の話と、どれも1つでその巻のメインエピソードを張れるようなエピソードが3つの入っているので、一つ一つが薄くなってしまっている。オードブル後にメイン料理を三つ出して終わってしまったコース料理ようで、スープやソルベを入れて緩急が欲しかったところ。でも、続きが出せるかどうか分からない新人賞作にそれを求めるのは酷か。
というわけで、新人賞らしい粗が見えつつも、優しい気持ちになれる物語で良かったです。