いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「サンタクロースを殺した。そして、キスをした。」犬君雀(ガガガ文庫)

聖夜を間近に控えた12月初旬。先輩にフラれた僕は駅前のイルミネーションを眺め、どうしようもない苛立ちと悲しさに震えていた。クリスマスなんて、なくなってしまえばいいのに……。そんな僕の前に突如現れた、高校生らしい一人の少女。「出来ますよ、クリスマスをなくすこと」彼女の持つノートは『望まない願いのみを叶える』ことが出来るらしい。ノートの力で消すために、クリスマスを好きになる必要がある。だから――「私と、疑似的な恋人になってください」これは僕と少女の奇妙な関係から始まる、恋を終わらせるための物語。


年上の彼女に振られ気だるげで自堕落な空気を醸し出す大学生の主人公が、不思議な少女と出会う。少女の持つ望まない願いを叶えるノートを使ってクリスマスを消し去るために協力する、切ない恋の物語。

大人になり切れない若者でないと書けない退廃的なのに瑞々しい、若さ溢れる文章。おじさんはその若さに中てられました。
言いようのない不安や焦燥、社会に対する不満、明確な理由は無くてもなんとなく気に入らないこと。日々感じる小さな、でも確かなネガティブな感情が所狭しと書き綴られていた。陽キャのように割り切って馬鹿を演じることも、大人のように諦めたりすることも、不良のように暴力に訴えることも出来ない、根が真面目な小市民は、負の感情をこうやって人知れず吐き出すしかないんだよな。わかる、よくわかる。
似たような鬱屈を抱える若者たちに、こんな風に思っているのはお前だけじゃないんだ!と、主人公が言うところの居心地がいい小説を書いた結果がこの作品なのかな。
そう思うと、SF(少し不思議)付きだからラノベレーベルなだけで一般小説向きだと思っていたけれど、本来読むべきはラノベ本来のターゲット層であって、ラノベレーベルで正解なのかもしれない。
自分みたいなおっさんが読むと「若いなー」と目を細めるだけだけど、同年代が読めばまた違った感想が出てくるだろう。