いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「むすぶと本。 『外科室』の一途」野村美月(ファミ通文庫)

本は読み手を、深く愛している。
本の声が聞こえる少年・榎木むすぶ。とある駅の貸本コーナーで出会った1冊の児童書は“ハナちゃんのところに帰らないと”と切羽詰まった声で訴えていた。恋人の夜長姫(=本)に激しく嫉妬され、学園の王子様・姫倉先輩の依頼を解決しながら、“ハナちゃん”を探し当てるのだけれど……。健気な本たちの想いを、むすぶは叶えることができるのか!? 表題作・泉鏡花の『外科室』ほか、“本の味方!”榎木むすぶがさまざまな人と本の問題を解決する学園ビブリオミステリー登場!


野村美月先生四年ぶりの新作は、本の声が聞こえる少年が出会った本の願いを叶えるべく奔走するビブリオファンタジー(これにビブリオミステリーと銘打つ編集のセンスの無さにはがっかりだよ!)
本の願い事は本の内容に沿ったものになるので、その内容によって切なくて優しい涙を誘う話あり、思いっきりはっちゃける明るい話あり、ドロドロの愛憎劇ありとバラエティに富んでいて、話によって景色が大きく変わるのが特長。全体的には主人公の榎木むすぶが穏やかな性格で本に対して底抜けに優しく、どこか浮世離れした雰囲気を持っているので、ハラハラがやや強めかも。
その分、周りにしっかりした人が多いのだけど、その脇役たちが作者のファンならどこかで見たことのある苗字の人や誰かに似ているあの人が出てきて、ニヤリとできるのが嬉しいところ。
そして忘れちゃいけないのがむすぶの“本”の恋人・夜長姫。
本を持ち込めば浮気を疑い、二言目には呪いの言葉をまき散らすヤンデレヒロイン。これが予想外に可愛い。ヤンデレに可愛らしい容姿と実害の無さが合わさると、こんなに可愛くなるのか。平然と受け止めているむすぶあってこそだけど。というか、むすぶくんの性癖が割と歪んでない? 5話目の愛憎劇といい「愛の形は人それぞれ」が一つのテーマだったのかもしれない。
キャラクターは尖がった人が多く遊びが多かったけれど、大切に読まれた本に生まれた意志が奇跡を呼ぶ美しい物語だった。続きが楽しみ。野村先生のツンデレヒロインはやはり負けヒロインなのか?も気になるところ。