いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「新米編集者・春原美琴はくじけない」和泉弐式(メディアワークス文庫)

「どうして小説の編集部に配属されなきゃいけないの?」
小説嫌いの春原美琴は、突然の異動に頭を抱えていた。
「文芸編集者ってのはな、小説を食って生きるやつのことを言うんだよ」と語る無愛想な先輩の指導のもと、彼女は一筋縄ではいかない作家達と悪戦苦闘の日々を送ることに。
そして「この本は絶対に売れるのかい?」と睨むような目で訊いてくるのは、誰もが恐れる厳格な文芸局長――。
これは、慣れない仕事に悩みながらも挫けず、成長していく美琴の姿を描く物語。


作家の父の所為で小説嫌いの主人公・美琴が、文庫編集部に異動になるお仕事小説。
リアルだった。シビアだったというべきか。
この手の作品は、努力・我慢した結果が最後に実を結ぶ作品が多い中、本作は驚くほど上手くいかない。
編集者の仕事内容を細かく知っている訳ではないので、仕事ぶりがリアルかどうかは判断がつかないが、失敗続きの初めの三ヵ月に、一人で任せてもらえても一つとしてスムーズにいかない業務、会心の仕事に結果がついてこないジレンマ。どれもが社会人の話としても不況に喘ぐ出版業界の話としても実にリアル。手掛けた作品で売れたのがヒット作の引継ぎだけだし、最終話の仕事もどうなるか分からないし。
でも、だからこそ『春原美琴はくじけない』のタイトルの通りに、どんな失敗にも折れずに食らいつき、逆境に必死に抗う美琴の姿が胸を打つ。なにくそと頑張る彼女に元気を貰えた。
ただ、ストーリーが中途半端なところも。
中盤に恋の気配を匂わせたのにその後音沙汰がなくなったり、亡くなった有名作家のファンと娘という先輩編集者との関係性が生かされないまま終わったりと、投げっぱなしの伏線が多いので続刊前提なのかもしれない。
美琴は仕事に生きるのか?恋もするのか? 先輩直江との関係は? 彼女がスタートさせた小説は売れるのか? 気になることはいっぱいあるので、是非とも続いて欲しい。