いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君と漕ぐ 3 ながとろ高校カヌー部と孤高の女王」武田綾乃(新潮文庫nex)

うちとペアを組んで、オリンピック目指さへん? 突如ながとろ高校にやってきた、孤高の女王こと蘭子の誘いに戸惑う恵梨香。パートナーの希衣の思いも複雑だ。葛藤を抱えた彼女は一人、コーチの芦田のもとを訪れる。そしていよいよ八月。インターハイ会場・長良川にやってきたカヌー部四人。恵梨香はシングルで蘭子に勝てるのか。そして希衣とのペアで、優勝をもぎ取れるのか――。


女子4人だけのながとろ高校カヌー部の活躍を描く青春小説、第3弾。
団体の枠を超えてペアを組める文部科学大臣杯に、孤高の女王・蘭子が恵梨香を誘ったことから始まるカヌー部のメンバーを葛藤が描かれる。インターハイ本番だったのに、これまでより大会が盛り上がらなかったのは、序盤で女王が文部科学大臣杯こそが本番だと印象付けていっちゃった所為だろうなあ……。
でも、人間模様の面白さは健在。
答えは出ているのに現在のペアの希衣にどう切り出して良いのか分からない恵梨香。正解は分かっていても感情が納得させられない希衣。希衣が空くことでまた悩みが増える千帆。見守るしかない舞奈。今回も思春期の女の子の揺れ動く心情が瑞々しく切り取られていた。
中でも希衣の成長を強く感じる話だった。
相手にとって何が正解なのか頭では理解していても、相手が嫌な思いをするのは分かっていても、嫌味の一つでも言わないと自分の心が納得できない。大人でも我慢できそうにない一言をグッと堪えた彼女の心の強さ。似た状況で恐らく言ってしまった他校の仲良しペアの不協和音との対比もあって、短気のイメージだった彼女の印象が一変した。
で、舞奈ちゃんはまた傍観者なのね。表面の明るさの裏で彼女も闇を抱えているのだが、なかなか表に出てこないな。次は新人戦=舞奈の出番もありそうなので、そこに期待しよう。もちろん今回色々と引っ掻き回してくれた要因、文部科学大臣杯も楽しみ。