いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「あの日、あの駅で。 駅小説アンソロジー」ほしおさなえ、岡本千紘、崎谷はるひ、奈波はるか(集英社オレンジ文庫)

その駅で別れを知り、人は少し大人になっていく――。
おばあちゃんの家を処分するために降りた清瀬駅で見つけた家族の顔。鎌倉高校前駅で出会った人の顔が見えない少女。下灘駅で食べた亡き母へを誘う塩むすび。決別と再会を見守る東京駅と京都駅。時は移ろい、人は去り、思い出を抱いた駅はそれでも新しいドラマを紡ぎだす。ありふれた駅のかけがえのない物語全四編。

『駅』をテーマにした四編のアンソロジー作品。



カントリー・ロードほしおさなえ 駅:西武池袋線清瀬駅
祖母の家の処分の手伝いにいく中学生女子の話。
随分としっかりした中学生で、というのが率直な感想。
思い出の地がなくなってしまう寂しさを感じながらも、実際に住んでいた祖母や実家である母までの哀愁はないと自分を感情を抑える振る舞いといい、明け渡す実家の整理が終わらなくてダウナーになっている母を諭す言葉といい、とても中学生とは思えない。
故郷がなくなることが悲しい話のはずなのに、彼女をそうさせた環境や早く大人になってしまった事実の方に悲しさを感じる話だった。



『クジラ・トレイン』崎谷はるひ 駅;江ノ島電鉄鎌倉高校前
コロナ禍の今を切り取った、今だからこその短編。
コロナの影響はラッキーだったのアンラッキーだったのか、社畜青年の悲喜交々に共感する。
でもこれ、駅は全然関係ないな(^^;



『どこまでもブルー』岡元千紘 駅:JR予讃線灘駅
年寄りばかりの集落で生真面目な高校生と、キッチンカーで旅をしながらおむすび屋を営む自由人の大人の話。
自分の土地への窮屈さ息苦しさを感じているがゆえに、気ままに生きるおむすび屋の青年に募る反発心。でもなぜか彼の生き方に惹かれてしまう本心。揺れ動く高校生の心情を、海と空の青さと共に切り取った短編。
最後のお涙頂戴は賛否両論ありそうかな。個人的には無い方が短編として美しいと思うのだけど。
それでも4編の中ではこれが一番好き。



『夜桜の舞』奈波はるか 駅:京都駅
「能」の一家に育ち、一度挫折した長男の話。
挫折した彼の悩みが上辺でしか分からないので、突発的な舞台が成功しても特に感動が無い。
テーマが短編向きではなかった。長編で挫折した経緯や能に対する想い、復活までの努力や葛藤が丁寧に描かれてこその話だと思う。