いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「盤上に君はもういない」綾崎隼(角川書店)

負けたくない敵がいる。誰よりも理解してくれる敵がいる。だから、二人は強くなれる。
将棋のプロ棋士を目指す者たちにとっての最後の難関、奨励会三段リーグ観戦記者の佐竹亜弓は、そこですべてを賭けて戦う二人の女性と出会う。永世飛王を祖父に持つ天才少女・諏訪飛鳥と、病弱ながら年齢制限間際で挑戦する千桜夕妃。歴史に残る激戦の末、リーグを勝ち抜き史上初の女性棋士となったのはどちらか? そして二人に導かれる、哀しき運命とは?


現実ではまだ一人もいない女性棋士を目指す女の戦いを描く将棋小説。女性という他に病弱というハンデを抱えた千桜夕妃を中心とした群像劇。
壮絶と言って過言ではない人生を送る女性の深く苛烈な愛の物語だった。
病弱で細く青白い姿しか想像できない上に、表面は穏やかで静かな性格と生気が感じられるような人物ではないのに、何処からそんなエネルギーがと思わせる、どの場面でも命を燃やしつくすかのように戦い生きる姿が格好いいのに胸を締め付ける。何度涙ぐまされたことか。好きなシーンはいっぱいあるけれど、起きた事実のどこを取ってもネタバレになりそうで、ネタバレすると面白さが半減しそうで怖くて書けないのがもどかしい。
あと興味深かったのが、語り部たちの将棋に対する情熱の形。
ひたすらに将棋だけを想い情熱を注ぎ続けるもう一人の女性棋士に、その熱に惹かれた観戦記者。大好きな姉との繋がりの為に将棋を指す弟。一番は将棋だけど100%の情熱は注げない若き天才。誰もが将棋が心の大事なところにあるのは間違いないのに、情熱の熱量とかけ方にはこんなにも色々な形があるんだなと。そんなバラバラな人たちを一つの盤に向かわせ、人間ドラマを産むのも将棋というボードゲームの面白さの一つなのかもと思ったり。
バラバラと言えば、『この世で最も相手を想い合うゲーム』(作中の台詞)をしている彼らの愛は、どうしてどこもかしこも一方通行なのか。これは作者の趣味人生のままならなさであり面白さかな。
強烈な愛で何度も心を揺さぶってくる物語だった。とても面白かった。