いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「おにぎり処のごちそう三角 家族を結ぶ思い出の食卓」つるみ犬丸(メディアワークス文庫)

愛する妻に先立たれ、二人の思い出が詰まった店を畳んだ元料理人の秋宗。
傷心を癒やそうと料理から離れ、見知らぬ土地で一人暮らしを始めることに。
だけど、引っ越し先の御石荘に「おにぎり処 バーベナ」という看板が……。
最近になって経営者が年若い女性に変わったらしく、歪なおにぎりが並ぶこの店は潰れかけていて――?
ひと口頬張れば笑顔になれる、三角の形に結ばれた幸せの物語――はらぺこの心でお召し上がりください。


最愛の妻を亡くし二人で始めた料理屋を畳んだ青年が、心機一転の引っ越し先で潰れかけたおにぎり屋を助ける話。
主人公のキャラクターが良かった。
料理以外のことはてんで不器用で、言葉遣いは乱暴。そんな粗野なイメージが強い青年ながら、行動の中に優しさと情を深さを感じる、古き良き日本男児みたいな人柄が好ましい。中でも複雑な関係のおにぎり屋の母子を、たどたどしくも自分の言葉で励まそうと一生懸命な姿が胸を打った。
一方で、ヒロインはあまり魅力を感じなかった。
魅力を感じるほど掘り下げた描写が無かったと言うべきか。メインのキャラクターの割に影が薄く、一方的に主人公に寄り掛かっているだけのように感じてしまった。これが、奥さんを亡くしたばかりの主人公の傷心を癒す何かや、奥さんの押しのけるような魅力があれば、物語に説得力が生まれたと思うのだけど。
それでも心温まる家族の物語で、いい話だったのは間違いない。