いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「むすぶと本。『嵐が丘』を継ぐ者」野村美月(ファミ通文庫)

本は読み手を、いつも見守ってくれている。
本の声が聞こえる少年・榎木むすぶが、学園のアトリエを訪れると妖精が泣いていた。妖精のような少女は姫倉蛍といい、悠人先輩の妹だという。むすぶは先輩から妹が本に“罹患”しているのではないかという深刻な相談をされる。本と深く共鳴する“罹患”は、時に人を破滅的な行為に走らせてしまう危険な状態だ。さっそく蛍をよく知る本たちに話を聞きに行ったむすぶは、思わぬ壁にぶつかってしまい――。むすぶは本の言葉を解き明かし、少女の涙の理由を知ることができるのか!?


本の声が聞こえる少年が出会った本の願いを叶えるべく奔走するビブリオファンタジー。全五話の短編連作。
今回もまた本好きにとって楽しい一冊だ。
新旧問わず色々な本が出てきて本好きの好奇心を刺激してくるし、話の方でも万引きに対する怒りや読書仲間を見つける難しさ、アレな本を買う時の羞恥に正論よりネタバレの方が痛いことなど、ちょくちょく本好きのツボを的確に突いてくるのがにくい。
お気に入りは断トツで第四話。
初めて物語でない本が出てきただけでも驚きなのに、それがニッチなハウツー本で、しかも中身がおっさんのショートカット美女とかキャラ濃すぎ。終始笑いながら読んでいた。いやはや、どんな本にも名言ってあるもんだ。また、この話はツンデレヒロイン妻科さんが頑張る話でもあって、違う意味でも顔がほころぶ。爽やかなラストといい、この第四話は傑作だと思う。
もう一つ選らぶならむすぶと夜長姫の出逢いを描いた第五話。
思わず引き込まれる怖い話と、ヤンデレ化前の夜長姫の儚く美しい雰囲気がいい。
今の夜長姫も好きなんだけど、違う意味で。
もうあの呪詛がないと物足りなく感じてしまう自分がいる。それに、本の想いと人の気持ちに引きずられてしまうむすぶを冷静に戻し、深刻に/重くなり過ぎた空気を一旦ニュートラルに戻してくれる、あの呪詛は物語的にも重要……それは呪いなのか?
今回も面白かった。次はむすぶと夜長姫が今の関係になる話があるのかな? そしてガンバレ妻科さん!