いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「うぐいす浄土逗留記」峰守ひろかず(富士見L文庫)

民話や伝承を好む大学生・綿良瀬伊緒は、二十歳の誕生日を境に見知らぬ異郷“うぐいす浄土”へと誘われる。どこか懐かしい、山奥の寒村を思わせるその里で、色白な青年・七郎と出会う伊緒。彼曰く、ここは人ではないものが住まう隠れ里で、元いた場所に帰る方法はわからない――。
たまらず飛び出す伊緒だったが、危険な妖怪に襲われ、助けるために力を使った七郎が傷ついてしまう。彼もまた人ではない、里を護る白蛇の化身だったのだ。
救われた恩を返すため、伊緒の昔話のような異郷生活が始まる。


民俗学を学ぶ女子大生が人ではないものが住む隠れ里に迷い込む異郷の物語。
そういえば神隠しって異世界転移だよなと今更ながら思った。主人公の伊緒が最終的に仕事内容も職場環境も民俗学を志す者にとっては垂涎の就職先に就き、異世界暮らしを決意したところでそう思った次第で。いやはや予想外の着地点だった。
そこに至るまでには慣れない異界の地の生活に苦労して、自信のない自分を変えて高めて勝ち取った立場なので、なんでもかんでも上手くいく所謂なろうテンプレ異世界転移とは別物だけれども。
物語の主な目的は伊緒が現世へ帰る方法を探すの事ではあるものの、その必死さよりも寂れた過疎村のような隠れ里での生活に感じるノスタルジーの方が強く出ている、少し物悲しくものんびりした空気の作品。その中で引っ込み思案だけど義理堅い伊緒と、里の護り部である実直で素朴な青年の七郎、真面目×真面目の初々しい男女が少しづつ仲良くなっていく姿にほっこりする。まあ、本人たちは相次ぐ難題に四苦八苦しているのだが。
人も里も雰囲気の良い作品だった。続くのなら伊緒の仕事でうぐいす浄土を活性化せるうぐいす浄土再興記とかになるのかしら。