いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「元世界最強な公務員 1.帰還勇者、身分を隠してたのに新人冒険者の世話をすることになりました」すえばしけん(HJ文庫)

久住晴夏はかつて、地球と繋がってしまった異世界を勇者として救った。その闘いの日々に嫌気がさした彼は、地球に戻った後に安定を求め公務員を目指して就職活動を始める。しかし、異世界に飛ばされたことで職歴も無し、学校も中退の彼が選べる仕事は少なく、その知識を利用して異世界交流課に勤めることに。その最初の仕事とは、ワケありな三人の新人女子冒険者をサポートすることで――。
隠遁したい元勇者による、現代バトルファンジー開幕!

作者の名前を久しぶりに見かけて嬉しくなって購入。タイトルだけなら間違いなく敬遠してた。


七年前、異世界と繋がってしまった日本。その折に巻き込まれて異世界に飛び、世界を救って帰ってきた勇者が日本で目立たず平和に暮らしたいと願う物語。苦労の末、市役所生活課内冒険者ギルドに就職できた彼は、紛れ込んだモンスター退治兼異世界交流の為に日本に来た三人の冒険者の女の子の世話をすることに。

世知辛いなあ、おい!
元最強=無双のお約束を「何それ美味しいの?」とばかりに置き去りにして、有名になって生まれるしがらみや、力を持つゆえの生き難さに苦しむ勇者ノイン=九住晴夏の様子が描かれる。
それに加えて、三人の女の子たちの日本に来るに至った境遇や抱えている問題も重い。ある理由で自分の存在意義に悩むミア、盲目に理想を追い続けるリュリ、現実に振り回されながら懸命にもがくマリナ。そんな三人娘を見守りながら、晴夏が自分の生き方を見つめ直す、ファンタジーでありながら人生に悩む若者たちの青春小説でビターなテイスト。
ところでミアがメインヒロインなのか? メインヒロインにしてはいけないヤバい性格だが。いや、この作者だからマリナの可能性も(年齢的な意味で)
タイトルから想像される爽快感とは無縁の、理想と現実のギャップにどう折り合いを付けるのかを問う、地に足の着いた物語だった。世界観の説明とキャラ紹介に徹した前半といい、突然切られるラストといい、タイトルの1.の通り1巻らしい仕様なので、物語がこの先どんな方向に進むのか目が離せない。