いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「忘れえぬ魔女の物語」宇佐楢春(GA文庫)

今年進学した高校の入学式が三回あったことを、選ばれなかった一日があることをわたしだけが憶えている。そんな壊れたレコードみたいに『今日』を繰り返す世界で……。
「相沢綾香さんっていうんだ。私、稲葉未散。よろしくね」
そう言って彼女は次の日も友達でいてくれた。生まれて初めての関係と、少しづつ縮まっていく距離に戸惑いつつも、静かに変化していく気持ち……。
「ねえ、今どんな気持ち? 」
「ドキドキしてる」
抑えきれない感情に気づいてしまった頃、とある出来事が起きて――。
恋も友情も知らなかった、そんなわたしと彼女の不器用な想いにまつわる、すこしフシギな物語。

第12回GA文庫大賞<金賞>受賞作


一日を平均5回繰り返し、その中の一日が採用されて次の日へ。世の中で一人そんな世界で生き、その全てを記憶している少女・相沢綾香。彼女が、将来魔法使いになるという稲葉未散に出会ったことから始まるSF(少し不思議)青春ストーリー。少し変則的なループもの。

強烈なもどかしさに襲われていて、なんと言葉にしていいものか。
常人の五倍の時を過ごし女子高生にして老成している綾香の持つ退廃的な雰囲気。微SF要素のワクワク感。運命の人に出会って、擦り切れ灰色になった世界が色付いていく様子。仲良くなっていくに従って濃くなっていく百合の気配。そのすべてが好みに合っていて、1月にして早くも今年の個人的ベストラノベが決まったか!というくらいのテンションだった。第三章までは。
この第四章はどうにかならなかったのか。
豹変する従姉への違和感、それまでの話を壊しかねない魔法の存在、百万日にした意味の弱さ。話は繋がっているし、諸々の不思議に一応の説明は付いてはいるので全然ダメとは言わないが、どれもしっくりこなくて猛烈にモヤっとする。せめて綾香の壮絶な足掻き・藻掻きが生きる形にはならなかったんだろうか。これではあまりにも報われない。
それでいてエピローグ(終章)は良いので、余計もどかしさが募るっていう。その辺りが大賞ではなく金賞な所以なのかな。
それでも作品の雰囲気、女の子二人のキャラクターと関係性、二人の物語という大枠の見た時のストーリー、どれも良かった。どうやら2巻の発売がすでに決まっている(アマゾンの予約がすでに始まっている)ようなので、納得のいく物語はそちらに期待ということで。