「ずっと……ずっと、あなたを探していました、世界を救うために」
自分の同人誌によって、魔王の復活が防がれる。突如現れた女子高生ヒメにそう諭された同人作家のナイト。ヒメの甲斐甲斐しい協力のもと、新刊制作に取り組むのだが……
「えっ、二年間で六部だけ……?」
「どうして『ふゆこみ』に当選した旨を報告していないのですか」?
「一日三枚イラストを描いて下さい」
即売会で百部完売しないと世界が滅ぶっていうけど、この娘……厳しくない!?
「自信を持って下さい。きっと売れます」
同人誌にかける青春ファンタジー、制作開始!
第12回GA文庫大賞<金賞>受賞作
過去数冊しか売れたことがない弱小同人作家の元に、彼を救世主だという美少女女子高生が現れたことから始まる、同人活動ライトノベル。
同人誌に対する愛を感じる作品だった。
同人誌の売り上げと魔王復活&世界滅亡の因果関係については最後の最後までまるで説明されないので、神託の書が関西弁なことを含めて「なんでやねん」と首を捻るばかりだが、同人活動に関してはとても真摯で、同人活動ものとして読めば普通に面白い。
まずはコミケやその他イベントのサークル参加の実態=イベントの裏側を知ることが出来る。話が進むと、売るために流行りやエロに走らず、自分の「好き」を誰かと共有したいという信念を貫き通す主人公の姿に、同人誌の本来あるべき姿を思い出させてくれる。そうだよね、同人誌と本当はそういうものだよね。
また、後半になってヒロインが台頭してくると一気に面白くなる。
電波な発言ばかりの痛い子の印象から主人公を甲斐甲斐しく世話をする理想の女の子にジョブチェンジ、くらいまでは特に目立たないヒロインだったのだが、主人公の推しアニメと同人誌について学んだ彼女は鬼編集者と化す。
素直で真面目な子が放つ正論の攻撃力って恐ろしい。ヒメちゃん半端ないって。同じオタクなら気を使って言えない同人作家にとって厳しい言葉を、ずけずけと畳みかけて来るもん。線の迷いとか構図の偏りとかアマチュアには一言で致命傷な口撃の数々に何度「やめてあげて!」と思ったことか。これ、ドMの同人作家にはとんでもないご褒美なのでは? とりあえず苦笑含みでも笑えるやり取りだったのは間違いない。
ちなみに同人誌と世界滅亡の因果関係には綺麗なオチが付いているので読後感も良い感じ。まあ、あそこまで行ったら理由はもうどうでもよくなっていたけどw
ストーリーに関して強引な面が見られたが、ヒロインには十分な魅力があり、好きなことに全力をかける青春物語として面白かった。