いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「86―エイティシックス― Ep.9 ―ヴァルキリィ・ハズ・ランデッド―」安里アサト(電撃文庫)

犠牲は――大きかった。〈電磁砲艦型〉との戦いは、セオの負傷はもちろん、幾人もの仲間の命をその荒波で飲み込んだ。
シャナ。シデンの隊「ブリジンガメン」副長だった彼女も、その一人であった。復讐を誓うシデン、そしてシン行方不明の報に動揺して狙撃できず、シャナ死亡の遠因となったクレナは、平静を失う。
しかし、戦況は少年少女らを慮ることはない。〈電磁砲艦型〉の逃亡先――現在交信可能な最後の国家・ノイリャナルセ聖教国。レギオンの脅威と戦う同胞でありながら、ヴィーカたち連合王国や、連邦上層部すら警戒する謎の国家に、シンたちは足を踏み入れる……!
機動打撃群・派遣作戦最終盤のEp.9!
“敵を撃てなければ、
兵でいることはできない。”


最凶の脅威は辛うじて退けたものの、大きな損害を被ったエイティシックスたち。だがその傷を癒す間もなく次なる戦場へ駆り出されるシリーズ第9巻。
エイティシックスたちは戦争を終わった後の未来を描けるのか。戦い=アイデンティティな彼らの葛藤はシリーズ中盤からずっと語られているテーマの一つであるが、それが今回改めて、生き残ったが戦えなくなったセオ、ミスで仲間を死傷させ自信喪失したクレナ、最も身近な喧嘩仲間を失ったシデンに襲い掛かる。
今回はクレナ回と言っても過言ではないと思う
セオは左腕を失った諦めもあるのかある程度割り切れていて大きな動揺はなく、シデンは大荒れだったが暴れる元気と周りフォローがあって何とか。それに比べてクレナの憔悴と躁鬱の“見ていられなさ”は二人の比じゃない。そんなクレナが多くの人に声を掛けられ、多くの期待される様子に、彼女がこれまでしてきたことが肯定されているようで嬉しくなるのだけど、本人に届くのはやっぱり彼の言葉だけというね(苦笑)
そんな、いつも以上の重苦しい空気が流れる一方で、死亡フラグを乱立している人たちが。
シンさんレーナさん、二人きりの時ならまだしも、公的な通信時にじゃれ合うのはお控えください。アネットはいくつパイを用意すればいいんだか。さらにアンジェまで。彼女はその後の出番が少なかったので、フラグを次まで引っ張らないか心配だ。
さて、その悩める若者たちを追い立てる戦場は聖教国近くの火山地帯。
“狂国”と揶揄される聖教国の実情は、、、まあ宗教国家なんてどこもこんなもんでしょう(日本人的感覚)
人の悪意や醜さを見せるこのシリーズに出て来る宗教なんて、ロクなものは出てこないと確信していたので、何が起きてもそれほど驚きはしなかった。と思ったら、当のエイティシックスたちが動揺したのが意外だった。彼らは人間なんて基本クソと割り切っているものだと。あれだけ蔑まされても善性を残しているのは、若さなのか保護した連邦の対応が良かったのか。間違いなく良いことなんだけどね、平時なら。最近は〈レギオン〉=どんなに倒しても良心が痛まない相手とばかり戦っていたので、この世界の悪意の本質と最大の敵は人間だということを、このタイミングで念を押して来るえげつなさは流石だなと。
主要メンバーが(主に精神的に)復活して、次回ついに反撃の時?