いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「1LDK、そして2JK。 IV ~3つの結末、それは4人の未来~」福山陽士(富士見ファンタジア文庫)

「いってきます」無自覚に声に出してからハッとする。当然ながら、返ってくる声はない。奏音とひまりの会話が聞こえないと、やっぱり俺の部屋は静かだな――。27歳サラリーマンと2JKによるひと夏の物語は、いよいよクライマックスへ。ひょんなことから身を寄せ合い、共に暮らしてきた3人。それぞれの夢や希望や心残りやほのかな気持ちは、もう1LDKには収まりきらないほど大きくなり、未来へと飛び立つ勇気をもたらした。それぞれの決断は、物語の結末はいかに? 読めば納得、きっとお気に入りの結末が見つかるはず。
人気沸騰ホームコメディ、完結編、だけど…、「夏休みが終わるまでは、一緒にいても良いですか?」


ひまりは知人に見つかり、奏音は母親が帰ってきて、終わりが見えた三人の共同生活。その時三人の決断は?なシリーズ第4巻、ラストエピソード。

残り少ない日々で思い出作りをしている様子は、さすがに楽しいよりも切なさ寂しさが勝っていたけれど、思いの外湿っぽくならなかった。別れをただ悲しむのではなく、それぞれに未来を見据えて前を向いていた。JK二人が大人だった。いや、大人になったのか。
それは、夢が否定されない環境(ひまり)、いなくならない家族(奏音)、帰ってきたら誰かがいる生活(和輝)。温かくて優しかった疑似の家族を、ぬるま湯に浸かるのでなくて、次のステップに進むための特別な時間に出来ていたということ。その事実で、この歪で本来許されない生活が、必要な時間だったのだと思えるのが嬉しい。
タイトルの語呂の良さとムフフなシチュエーションに惹かれて、ラブコメとして読み始めたシリーズだったけど、いつの間にやら夢について、人生について真剣に考える真面目な物語になっていた。家族に否定され/捨てられた二人の女の子が受け入れられ肯定されて元気を取り戻す、心温まる青春ストーリー、とても良かったです。




以下、致命的なネタバレ




エピローグは各ヒロインがそれぞれに報われるマルチエンディング。
そう来たか。悪くはないけど、正直煮え切らないものはある。作者にはそれぞれに愛着があって、一人は選べなかったのだろう……と、好意的に受け取っておこう。
個人的には幼馴染みの長年の想いが成就して若いJK二人はいい思い出になる友梨ルートが一推し。なんだけど、友梨は作中での絡みが少ないのであまり説得力がないかな。終盤の和輝の告白と柔道教室の件を考えると、ひまりルートが話の流れ的に一番自然なんじゃないかと。……すまん、奏音。