いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「朝日堂オーダーメイド製本工房」相原罫(メディアワークス文庫)

製本会社朝日堂の屋上にひっそりと建つ小さな工房。生真面目な野島志乃はそこで、本を一冊だけ作ってほしいという個人の依頼を受けている。
「志乃ちゃんは本が大好きですもんね」「私が好きなのは『本を作る仕事』です」
見習いの田中哉太とともに志乃は、特殊製法も駆使し、依頼人の想いが込もった本を丁寧に手作りしていく。
メーテルリンクの『青い鳥』、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』にまつわるエピソードが詰まった、本好きには堪らない、心にしみる物語。


母と祖父の不仲により疎遠になったまま亡くなってしまった祖父の葬儀で、製本の仕事をしていた祖父の弟子だという女性に出会う。というところから始まる、本と人を繋ぐ製本の物語。
若いと言ってもいくらなんでも礼儀がない哉太(第1話主人公)に、可能性は初めから一つしかないのに孫も同僚も何故か誰も思い至らない遺品の送り先。そりゃないよと思うばかりで第1話での第一印象はあまり良くなかった。
でもそこから一転、視点が女性に変わり、話に名作が絡んでくる第2話からは面白い。
特に第3話が良かった。学生時代の特別な友情と淡い恋心が絡む甘酸っぱい話で自分の好みに合ったことが一つ。それに、第2話までは調べた知識を連ねただけみたいだった製本の話が、創意工夫と込める想い、何より仕事をしている姿が読めて、お仕事小説としてここから急に面白く。ただこの話、依頼者のデザイナーが全然仕事してないよね(苦笑)
一冊の本に込められる、作り手と読み手のそれぞれの想いが交差する物語で良かった。第3話みたいな話が3つ続いていれば……と思うのは贅沢か。