いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「紙屋ふじさき記念館 カラーインクと万年筆」ほしおさなえ(角川文庫)

ふじさき記念館にインクメーカーとガラスペン作家によるコラボ企画が持ち込まれる。館長の一成から協力を頼まれた百花はそのインクとガラスペンにすっかり魅了される。商品のネーミングに悩んでいると、母から作家だった父の遺品の万年筆を渡され、自分の名前の由来が童謡「春の小川」であったことを思い出す。それをヒントに商品名が決定し大きく進みだすが、またしても一成のいとこ・浩介による本社営業部から横やりが。


大手紙企業の御曹司・一成と大学生バイト・百花の和紙をめぐる物語、パート3。
いや、2巻からその気があったけど3巻ではさらに藤崎家の人々は脇役ポディションなので「工作好き女子大生・百花のバイト奮闘記」が正しいかも。嫌味な従兄は出番も台詞もばっさりカットされてるし。
さて今回は、和紙そのものではなく水引とカラーインク+ガラスペンがテーマ。サブタイトルとは裏腹に水引の方に重きが置かれている。
とりあえず何でも自分でやってみる/作ってみる百花のおかげもあって、水引が楽しそう。いつも通りの細かな説明で蘊蓄小説の側面がありつつ、実際にやってみた感想があるのが興味を惹かれる所以だろう。外周と内周の長さの差を意識しながら、隙間が空かないように曲げていくわけだ。よく見る結び方ならできそうだけど、複雑なものは相当な慣れと集中力と根気が要りそうだ。
カラーインク+ガラスペンの方も書き味や色の感想はあったが、やはりこちらは色を見てみないことには何とも。小説だから仕方がないが。
と、物に惹かれたり惹かれなかったりした話は置いといて、
今回一番の感動は縁の広がり。ちょっとした出会いから始めたバイトから、こんなにも人の輪が広がったことを思うと感慨深い。
初めはカメラが得意な友達・莉子に協力してもらうくらいだったのが、2巻では亡き父の小説と編集者の母が、そして今度は祖母とその家族まで。
いつも自信がなさそうな百花だけど、困った時に声を掛ければ助けてくれる人が何人もいること、自分のアイデアがきっかけで年齢も住む場所も違う多くの人が集まってきたこと、人と人を繋げられたことをもっと誇ってほしいな。
しかし、いつの間にやら家族ぐるみのお付き合いになってるね。おばあ様同士の顔合わまで出来てしまった。これはニヤニヤできるルートの可能性も?
今回も薀蓄あり人の成長ありで面白かった。
「自信がない」「やりたいことが分からない」だった百花は着実に変わってきているので、そろそろ一成の変化も読みたいところ。