いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「さよならの言い方なんて知らない。5」河野裕(新潮文庫nex)

冬間美咲。あるいは、ウォーター架見崎という街から生まれた、最も新しい伝説。香屋歩を英雄と呼ぶ、美しい少女。だが、彼女は現実世界で死んだはずだった。ありえない再会は、なぜ叶ったのか。能力が生んだ奇跡? まさか。世界はもっと、泣きたくなるほど残酷だ。「君を作ったのは私だ」――いま、常識は崩れ、たった一つの真実が明かされる。慟哭と戦慄の青春劇、第5弾。


チーム勢力図が激動し新たなループを迎える架見崎。しかし、平和の国を離脱し自分のチームを作ったトーマが架見崎から消えてしまい?……な第5巻。
架見崎内部に関していえば、ユーリイ無双が熱かった。
情報という最強の武器を駆使して、少ない駒と劣るポイントで最強最大チームを崩していくその手腕はまさにゲーマー。それも飛び切り優秀な。
香屋の望まない方向に進むことで、シリーズ途中からずっとある香屋の掌の上感から少しでも脱したのも大きい。まあ、ユーリィはユーリィで香屋とは違う気味悪さがあるので、どっちが良いとは言えないのだけど。
ただ今回は、そんなものは記憶の彼方に飛んでしまう程の衝撃がその後に待っていた。
思わぬところで香屋の前に姿を現した、トーマの口から語られる架見崎の真の姿。このタイミングで明かされるのも予想外なら、その内容も予想外で度肝を抜かれた。
架見崎という街の存在自体はそこまで意外でもなかったけれど、逆に現実の世界がぶっ飛んでいた。極一部を除いたプレイヤーたちの正体も。表紙が少女一人で常にヘッドホンが傍らにある理由はそういうことだったのか。作品の内容と合っていないから気になってはいたんだが。
架見崎の正体がわかり、トーマの目的とカエルの秘密も明かされ、ヘビが登場しと全く別の物語の様相を呈してきたところで次回へ。
次からは全ての根底が塗り替えられても香屋は香屋であり続けられるのか?がテーマになりそうだが、着地点は全く予想がつかない。



以下気になること(ネタバレ)


ヘビの勢力の目的と手段が全く噛み合っていないのが引っかかる。別の思惑がある?
天才博士の再現をしたいのに戦いに明け暮れる架見崎で実験する意図が分からない。それに泉妻博士の私情が入りまくってるように思える。誰かの恣意が入った時点でそれはもう再現ではないだろう。彼女がただの汚い大人でなければいいが。そうだと物語が一気にチープになりそうで怖い。