いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒」菊石まれほ(電撃文庫)

脳の縫い糸――通称〈ユア・フォルマ〉。ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。縫い糸は全てを記録する。視覚、聴覚、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。
電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。
過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む!
第27回電撃大賞《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!!


脳内に埋め込む情報端末〈ユア・フォルマ〉の普及した世界で繰り広げられる近未来SFサスペンス。
世界観としては所謂電脳世界でこれと言った目新しさはないけれど、流石は電撃の大賞作と思わせるクオリティの作品だった。
まずは探偵ものとして面白い。
中盤の起承転結の転のインパクトと、真相が犯人へ至る道筋が綺麗なのも良い点だが、それ以上に凸凹コンビの関係性が面白い。
普段は仲が悪くて口を開けば罵りと皮肉の応酬なのに、ここぞの時には妙に息が合った連携を見せる絶妙なバディ感が心地いい。
また、幼少期に受けた多くの心の傷から怯えた猫のように方々に牙をむく孤独な少女・エチカが、相棒との触れ合いの中で凍った心を溶かしていく救いの物語でもあり、人間ドラマとして読み応えがある。
そのどちらの要素でも、主人公エチカ以上に存在感があったのが相棒ハロルドのキャラクター。
普通なら人に従順なはずのヒト型ロボットでありながら、人を食ったような喋り方をするので掛け合いがより面白くなっていたし、時々エチカに見せるロボットは思えない優しさがあるかと思えば、場合によっては人類を滅ぼしそうな冷徹な一面も併せ持つ。一筋縄ではいかない濃いキャラクターだった。
好みの問題はあれ銀賞、金賞と微妙だったので心配だったのだけど、大賞はちゃんと面白かった。良かった。