いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「僕といた夏を、君が忘れないように。」国仲シンジ(メディアワークス文庫)

僕の世界はニセモノだった。あの夏、どこまでも蒼い島で、君を描くまでは――。
美大受験をひかえ、沖縄の志嘉良島へと旅に出た僕。どこか感情が抜け落ちた絵しか描けない、そんな自分の殻を破るための創作旅行だった。
「私、伊是名風乃! 君は?」
月夜を見上げて歌う君と出会い、どうしようもなく好きだと気付いたとき、僕は風乃を待つ悲しい運命を知った。
どうか僕といた夏を君が忘れないように、君がくれたはじめての夏を、このキャンバスに描こう。

第27回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞≫受賞作



東京の絵描き少年と離島の少女。出会わないはずの二人が出会い、それぞれの運命を変える一夏の逢瀬。これぞまさにボーイミーツガールという作品。
大好物のボーイミーツガールとあって、好きな要素がいっぱいだが、中でもよかったのが主人公、海斗の心理描写。
絵の才能が有りながらトラウマからスランプに陥っている海斗が、出会った少女、天真爛漫な風乃に振り回されているに惹かれていき、心の色彩を取り戻していく過程と、大切なものを見つけていく様子が丁寧に描かれているのが好印象。
もう一つ良かったのが、自然あふれる沖縄の離島の情景描写。海斗の風乃の思い出を色彩豊かに飾ってくれる。おまけにそれを描く油絵作成過程の描写まで細かい。
ただ、その各描写の丁寧さに比べると、話の展開が雑に感じる。
とりあえず「隠し事があります」という描写はこんなに沢山要らない。風乃の台詞が隠し事をほのめかすものばかりで、心中があまり察せられないので、風乃が海斗を利用した面が強く印象に残ってしまった。ヒロイン側にも主人公に惹かれている様子が分かる描写が欲しいところ。
それと、やたらと暴力的な島民の振る舞いも不自然。隠したいことがあるなら表面上は普通か過度に優しく接してくるのが大人だろう。
良いところもあれば、ちょっと…と思うところもある新人賞作品らしい作品だったかと。