いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「叙述トリック短編集」似鳥鶏(講談社タイガ)

作者の仕掛ける〔魔法〕はこの本すべてにかけられているーー
「この短編集は『叙述トリック短編集』です。収録されている短編にはすべて叙述トリックが使われておりますので、騙されぬよう慎重にお読みくださいませ。」(読者への挑戦状より) 大胆不敵に予告されていても、読者は必ず騙される! 本格ミステリの旗手がその超絶技巧で生み出した、異色にして出色の傑作短編集!!


タイトル通りの短編集。
冒頭の『読者への挑戦状』が親切過ぎた。「ここから騙してますよ」と言わんばかりの書き方なんだもの。
叙述トリックによる犯人当ての側面もあるけれど、それ以外のことの方がインパクトがある話が多くて、ミステリ抜きにしても読み物として面白かった。
あと、上半分カバーは時々手に引っかかって微妙に読みにくいです。




以下各話事(大いにネタバレあり)





ちゃんと流す神様
内容:詰まっていたはずのトイレを治して綺麗にした犯人は?
犯人の説明、理屈は納得出来たけど、そこまでしなくても感が強い。
叙述トリックの本命が別のところだから、そこまで気になる
新入社員なのに若くない若井さんの時点で中途採用の多い若者のいない中小企業を想像していたら、まさかこんなぶっ飛んだ会社だったなんて。



中合わせの恋人
内容:写真同好会の暗室でフィルターを差し替えた犯人は?
妹のいう松本さんと兄が見た松本さんは別人だというのは分かったが、そもそも片方松本さんじゃなかったのか。
そんなことより、極上の恋愛短編だった。
奥手で両片想いの2人の距離が物理的に少しずつ縮まっていく様子にニヤニヤしてしまう。



閉じ込められた三人と二人
内容:強盗犯の内の一人が殺された。犯人は残りの三人か縛られた二人の日本人か。
短いけれど正統派叙述トリック。いや、正統派なのはミステリとしての舞台か。
オチがひどいw



なんとなく買った本の結末
内容:暇なバーで店長に最近読んだ本の話をするアルバイト
叙述トリックなのそっちかい!ってなる話。
初めから犯人が分かっているタイプの話だったので、作中作内で何か仕掛けがあるもんだと。
ただ、この事件(作中作)の問題は、何故犯人はアル中の父でなくその友人の根岸氏を殺したのか、だと思うのだが。殺意を抱くのは暴力を振るう父の方のはずなのに、久しぶりに会った友人に酒を勧めただけの根岸氏に殺意を覚えるにまでに至る過程が分からないので、もの凄くモヤっとする。



貧乏荘の怪事件
内容:中国人留学生の李さんの部屋から海参が盗まれた
軋み音マニアってなんだよw
色々なマニアが出てきたけど、この人が一番変。
犯人はちゃんと違う名前で書いてあるので特に問題なく。でも叙述トリック短編集だから注意して読んでるけど、普段ならパッと見の字面で読み飛ばすだろうな。



ニッポンを背負うこけし
内容:全国各地の像にイタズラする愉快犯HEADHUNTERの次のターゲットは巨大こけし
色々種明かし編。注意深く読んでいた人は「知ってる」ってなる。
男性三人に女性一人+服と道具で少なく見積もってもドクター一人に250kgの負荷がかかるんだけど、、、いけるか?これ。



あとがき
内容:担当河北氏、殺される
『卒業したら教室で』に続き遊んでるなあ。
作者の作品は主に市立高校シリーズしか追っていないので大分間が空いているのだが、昔はもっと真面目なあとがきだった記憶が。
「パクリ」「パロディ」「オマージュ」の解釈に思わず唸った。わかりやすい。