いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「死にたがりの君に贈る物語」綾崎隼(ポプラ社)

全国に熱狂的なファンを持つ、謎に包まれた小説家・ミマサカリオリ。だが、人気シリーズ完結を目前に訃報が告げられた。奇しくもミマサカの作品は厳しい批判にさらされ、さらにはミマサカに心酔していた16歳の少女・純恋が後追い自殺をしてしまう。純恋の自殺は未遂に終わるものの、彼女は「完結編が読めないなら生きていても意味がない」と語った。
やがて、とある山中の廃校に純恋を含む七人の男女が集まった。いずれもミマサカのファンで小説をなぞり廃校で生活することで、未完となった作品の結末を探ろうとしたのだ。だが、そこで絶対に起こるはずのない事件が起きて――。
著者自身の根源的な問いを内包する、痛切な青春ミステリ!


「あなたがいるから、私は小説を書こうと思います」
本文の最後の一行にして帯にも書かれたこの一文に込められた意味と想いの重さを知る、純粋で歪んだ愛の物語だった。
舞台は山奥の廃校。若者を熱狂させた人気シリーズが小説家の死去により未完に終わった。追体験すれば結末が見えるのではと、7人の若者たちが作品に準えて山奥の廃校で奇妙な共同生活を始める。所謂クローズドサークルだ。
しかし、そのクローズドサークルを状況と情報を限定してトリックや謎解きを面白くする装置としてではなく、集まった7人の若者たちの感情を剥き出しにさせる装置として使われている。おかげで憧れ、妬み、傲慢、我慢、同情、諦め、あらゆる感情がダイレクトに伝わってくる。誰が、何のために、どんな、嘘をついているのかを推理するミステリ要素はあるが、その嘘もエゴがぶつかり合う青春の一要素だと思う。
そんな奇妙な共同生活が生む青春ドラマは、
色々な要素があり過ぎて、どれにも良いも悪いも言えなくて、何とも感想が書きづらい。
例えばエゴサーチ。作者にとって反応はモチベーションになるが、批判は猛毒になる。この物語内のことで言えば、大元になった人気シリーズ。毒親の所為で生まれた不幸な少女を嘆けばいいのか、不幸な境遇があったからこそ生まれた傑作を喜べばいいのか。
そして結末、歪んだ愛を貫き通した末に奇跡は起こったが、これを肯定していいのかは大いに悩む歪み方だ。我がまま娘の癇癪にもう一人の我がまま娘が根負けし、死にたがりがもう一人の死にたがりを縛ったこの結果は、果たして幸せなのか不幸なのか。
作者が日々感じている「ジレンマ」を目一杯籠めた物語、そんな印象を持つ一冊だった。