いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「金沢古妖具屋くらがり堂 夏きにけらし」峰守ひろかず(ポプラ文庫ピュアフル)

妖怪たちの古道具――古“妖”具を取り扱う不思議なお店「蔵借堂」は、店主を始め、店員も皆妖怪! 金沢に転校してきた葛城汀一は、普通の人間ながらそこでアルバイトしており、クラスメイトで唐傘の妖怪・時雨とともに日々妖怪がらみの事件に巻き込まれていた。ある日、さすらいの妖具職人・魎子が店にやってきて、時雨を弟子に誘う。凸凹コンビに別れが訪れることに……!?
ほっこり温かく、ちょっぴり切ない妖怪の日常系事件簿。


古都金沢にある古道具屋を舞台に、人の世界に生きる妖怪たちの様子と人間と妖怪の友情を描く物語、第三弾。
汀一と時雨、それぞれの理由で友達を作るのが下手な二人が出会ってから約一年。ゆっくりと友情を育んできた二人に「別れ」という大きな転機が訪れる。
やっぱりムードメーカーだね、汀一くん。主人公だから当たり前ではあるけれど、汀一の気分が沈むと作品全体の雰囲気も暗くなる。
しかも今回は春から夏にかけての金沢の街。前回は泉鏡花の怪しくも美しい世界観と爽やかな青春がミスマッチだったが、今回は雨の多い金沢の街と、悩んで沈んで晴れない気分の二人の心情がシンクロしていた。その暗さに、特に時雨を送り出した後の汀一の沈み具合に友情の深さを感じられるのだけど。
一方の時雨はいつも以上に口数が少なかったり不在だったりで存在感薄め。その代わり?で存在感があったのが汀一の想い人、亜香里。
第三話に彼女の過去が知れる話があったりして、これがなかなかのデレ具合。汀一が少し押せば恋が成就しそうな、少なくとも定期的にスイーツデートに誘うくらいは楽勝な感じだったのだが……。ここで男の友情に頭がいっぱいで他が目に入らないのが、間が悪くて不器用で優しい汀一らしさか。そして、このもどかしさが青春小説の醍醐味か。
大いに悩んで一つ大人になった(ような気がしないでもない)汀一の成長の物語、良かった。