いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Babel IV 言葉を乱せし旅の終わり」古宮九時(電撃の新文芸)

キスクでの激動を経てファルサスに帰還し、子供用の言語教材を作成する仕事についた雫。エリクと協力して引き続き日本帰還の手立てを探り続けていたが、その鍵となるはずの外部者の呪具、秘された歴史を記した本の一冊が予想外な場所から見つかることに。
一方、もう一冊の呪具を保持する邪悪な魔法士アヴィエラは、突如として大陸全土に向けて宣戦布告する。
「私の名はアヴィエラ。七番目の魔女。時代の終わりと始まりでお前を待っている」
決戦の地は、禁呪によって異界化した亡国ヘルギニス跡地。ファルサス王ラルス率いる連合軍が結成され、呪具の片割れを所持する雫も否応なく戦いに巻き込まれていく。
神話の時代に遡る言語の由来、子供達が言葉を失う流行病、この世界を観測する外部者の存在、そして現代日本からやってきた雫が言葉を解する意味。その全ての謎が一点に収束して明かされていく。長い長い旅の果てに、少女が知る真実とは――。
言葉と人間を巡るロードファンタジー、堂々完結。


何の力も持たない女子大生が異世界を旅するファンタジー、世界に宣戦布告をした七番目の魔女を名乗る強大な魔法士と相対する完結編。
言葉、言語を大切に紡がれてきたこの物語の根源「異世界人なのに何故言葉が通じるのか」の秘密がついに明かされる。
それと合わせて大陸の言語が統一されている理由、子供達が言葉を失う流行り病、おまけで妙に頑丈な雫の身体の秘密も明かされていき、ここまでで張られてきた伏線が綺麗に回収されていく様が気持ちいい。
その過程で分かったことが一つ。
雫さん、あの鋼鉄の精神力は本当に自前だったんですね。
今回も戦闘では無力な少女とは思えない思い切った決断の数々で、読者をドキドキハラハラさせてくれた。その極めつけが七番目の魔女アヴィエラとの対峙。自分よりも遥かに強い傭兵や魔法士が次々とやられていく中で、生身で堂々と正面に立つ雫の姿に感動すればいいのか呆れればいいのか(苦笑)
そしてその対峙がハイライト。
人の愚かさを憂い嘆き事を起こしたアヴィエラと、人の善性と可能性を信じる雫。どちらも人間の一面でどちらの考え方も間違いではなく、また『Unnamed Memory』でこの世界の真実の一端を知っていると、魔女もまた被害者だと分かるので、遣る瀬無さが募るラストエピソードだった。同時に色々と考えさせられる命題でもあった。「考えることを止めない」雫やエルクが常にやっていたことが一番大事なこと。これが答えじゃないかと個人的には思っているのだが、どうだろう。
無力な少女が自分の意志を貫く、ドキドキハラハラがいっぱいの最高に面白いファンタジーだった。エピローグで雫が最後に出した決断に、明るい未来が見えで笑顔で余韻に浸れる……と思っていたのに、
家族への手紙と姉の反応はズルいわ。こんなん泣くわ。