いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「むすぶと本。 『夜長姫と耳男』のあどけない遊戯」野村美月(ファミ通文庫)

あの、はな色の本にもう一度会いたい――。
榎木むすぶは中学二年生の夏に出会ったはな色の本を忘れられずにいた。あれから同じタイトルの何冊もの本と話したけれど、あの本とはやっぱり違う。そして中学三年生の夏、むすぶは再び北陸の地を訪れることになった。やっと会える! と胸をときめかせる反面、その本の持ち主と思われる少女のことは怖い。ひとまず事件の起こった屋敷を訪ねてみると折り紙にくるまれたブローチを拾う。そこには『わたしに会いに来て』と書かれていて――。表題作他、恋にまつわる短編も収録した第3弾!


いつものメンバーの日常を描く短編三編と、このシリーズの根源、むすぶと夜長姫が恋人になったエピソードが語られる長編一編の全四編で送る第三弾(B6判を入れると第五弾)


第一話 『少女パレアナ』は今日も幸せ
内容:高等部に遊びに来る悠人の妹・蛍と妻科さんの出会い
ただひたすらに妻科さんが可愛い話。
ストレートに好意を示していて、誰にでも優しい性格なのに、ツンデレヒロイン風味なってしまう妻科さんは奇跡の存在なのかもしれない。歴代の野村作品ツンデレ負けヒロインの中では最強の可愛さ。
愛情表現がストレートなのに何故か下手な感じとか、ヤキモチの妬き方とか妻科さんと夜長姫は結構似た者同士かも。二人とも猫耳が良く似合ってるし。蛍ちゃんは垂れた犬耳の方が似合いそう。



第二話 『好色一代男』は闇夜も懲りない
内容:堅物イケメン若迫くん、デートする
誠実な若迫くんがトリプルブッキングデートをかますなんてと驚いたけど、本人がデート=時間を合わせて出かけることくらいの認識しかないないので納得。むしろ『好色一代男』がとんでもない内容だったことの方が衝撃だった。
悠人は好きな人が出来た時に役に立つなんて言ってたけど、本人が何が悪いか分かってないから今後に生きることはないと思うぞ。



第三話 『リルケの詩集』は貴方の運命を信じて歌う
内容:悠人の二回目の恋の話
“文学少女”シリーズの千愛登場!
初めは見たことある名前だなくらいのおぼろげな記憶だったのに、悠人の言「感情の抜け落ちた無表情の女性」で全てを思い出せてしまった。そんな千愛が幸せを掴んでいることだけで胸がいっぱいです。



第四話 『夜長姫と耳男』のあどけない遊戯
内容:夜長姫との出会いから一年、むすぶが再び姫倉の別荘へ
“姫倉”の姫、魔性の少女・鏡見子の狂気とその顛末。
男を惑わせる美貌と妖艶さを持ち、人の常識や倫理観が通じない狂気を持つ鏡見子はまさに怪物。同じ言語を使ってるのに言葉が通じない会話と、血の赤に彩られた各シーンはまさにサイコホラー。読み物のホラーにはあまり感情を動かされないのだが、こうも色濃く血を連想させられると流石に来るものがある。
そんな“理解できないもの”のはずなのに重苦しさと切ない余韻を残し、その後の幸せを願わずにはいられなくなる不思議な読後感。
むすぶの度を越した善性も狂気の部類だと思っているのだけど、鏡見子と似た夜長姫に恋をするのは、危ない部分で惹かれあうものがあるんだろうか。