いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「紙屋ふじさき記念館 故郷の色 海の色」ほしおさなえ(角川文庫)

新入生オリエンテーションで大忙しだった小冊子研究会へ、ひとりの新入生が訪ねてくる。百花が作った「物語ペーパー」を見たという。彼女と活版印刷の話で盛りあがり、研究会の新歓遠足は川越にある印刷所「三日月堂」の見学となる。当日、百花は店主・弓子と挨拶を交わす。一方、紙屋ふじさき記念館館が入るビルの取り壊しが正式に決定し、その存続が揺らぎ始めていた。物語は「活版印刷日月堂」が完全リンク、必読!


大学三年生になった百花。そろそろ現実のものとなってきた就職活動に向けて、自分の将来、自分のやりたいことについて悩む百花の様子が描かれるシリーズ第4弾。
日月堂でたー。同作者によるクロスオーバー的なものは大好物なので、それだけでワクワク感倍増。過去作のキャラクターお本来見られない一面が見られるのっていいよね。そうか、あのお婆ちゃんのお庭の子が大学生か。
さて、本編の方はいつも通り記念館での仕事、大学の様子、小旅行(今回は川越と京都)がバランスよく描写されているのだが、就職活動のこともあるのか百花の思考が常に記念館を中心に置かれていて、いつも以上のお仕事小説感がある。というか最早それを通り越して業務日誌になっているような。
日々の生活や外の人との関わりなどで得た発見を、一つ一つ丁寧に記念館の今後に繋げて考える姿勢は意識が高くて、もうすでに社会人のよう。どこかふわふわした印象だった百花がここまでしっかりした考えを持つようになったこと、その前向きな姿勢と真面目さが藤崎にも伝播していたことなど、百花の確かな成長を感じられる話だった。
ただ、あまりに一生懸命過ぎて、どこかで息切れしていまいそうな、何かで挫折した時にぽっきり折れてしまいそうな、そんな不安を感じる面も。そこまで仕事人間でない自分には、そんなに肩肘張らなくてもと思ってしまう。
しっかりしだした百花をどこか誇らしく感じと共に、若干の息苦しさを感じる、そんな話だった。