いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「公務員、中田忍の悪徳」立川浦々(ガガガ文庫)

区役所福祉生活課支援第一係長、中田忍(32歳独身)。責任感の強い合理主義者。冷酷だが誠実、他人に厳しく自分自身にはもっと厳しい男。ある深夜、帰宅した忍は、リビングで横たわるエルフの少女を発見。忍は悟る。「異世界エルフの常在菌が危険な毒素を放出していた場合、人類は早晩絶滅する」「半端な焼却処理は、ダイオキシンの如く地球を汚しかねない」「即座に凍結し、最善で宇宙、次点で南極、最悪でも知床岬からオホーツクの海底へ廃棄せねば……」だがその時、《エルフ》の両瞼がゆっくりと開き――

第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作


もし本当に異世界からエルフが来たとしたら、
未知の病原体の可能性は? 言語は? 常識や生活習慣の違いは? 見た目通り経口摂取なのか? 地球人と同じ食べ物を与えて大丈夫か? 排泄も同じか?……
福祉課の堅物係長が、助けとして呼んだサブカルに強い親友と信頼できる部下と一緒に、異世界エルフの環境や生態や習慣を真剣に考察し討論する、全力でおバカをやるタイプの作品。
面白かった。おバカなことを真剣にやる作品は元々大好物だが、異世界転移ものでは無視される諸々の問題をクソ真面目に考察する着眼点が面白く、それだけで一冊書いてしまおうという思い切りが好ましい。
特に主人公・中田忍のキャラクターがシュールで素敵。
冒頭から「不正受給者死すべし、慈悲はない」の精神で読者の心を鷲掴み。エルフと直面してからはその圧倒的知識量で“要らん心配”を次々と生み出していくトラブルメーカーぶりを発揮しつつ、恥ずかしいことを真顔で言うズレた感性で笑いを誘う。この作品のおかしさは彼なくしては語れない。
ただ、初めからきっちり型にはめ過ぎた感がある。
問題や疑問に直面すると、エルフ本人の観察もそこそこに考察する話の流れと、上司と部下のキツイ言葉に愛情を感じるじゃれ合いみたいなやり合いを呆れながら見守る親友の構図。3人になってからずっとこれなので、話し合うテーマ=目先を変えて同じことを繰り返しているように思えて、後半はやや飽きる。
考察に一生懸命で観察が足りてないのか、元々あんまり動いてないのかはわからないが、もう少しエルフちゃん側の動きがあれば話に広がりがあったように思うのだが。
掴みは最高。でもその勢いを最後まで保てなかったのが残念。って、新人賞作に求め過ぎか。