いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「月とライカと吸血姫7 月面着陸編・下」牧野圭祐(ガガガ文庫)

東西二大国による月面着陸への共同計画「サユース計画」が着々と進む。共和国宇宙飛行士レフはイリナへの想いを告げることを決心、イリナとともに彼女の故郷の村へと赴く。一方、連合王国のバートとカイエは、共和国製宇宙船を連合王国製コンピュータで制御するという難題解決に成功。「サユース計画」はついに最終ミッション=月着陸船搭載ロケットの打ち上げの日を迎えた。世界が東西に二分され、月を目指し争った時代。その光と陰の歴史に、宙に焦がれた人と吸血鬼がいた。宙と青春のコスモノーツグラフィティ、ここに完結!


注)今回はとってもネタバレ感想です。


最終巻。
問題は抱えつつも順調に進んでいく共同計画「サユーズ計画」。その中で多くの関係者の想いが語られていく出演者総ざらいの最終回らしい最終回だった。
本番で飛ぶ三人がこれらの想いを一緒に宇宙へ持っていくんだと思うと、一つ一つの夢や願いが重く熱いものになっていく。あとちょっとした懐かしさも。
アーニャさんって居たなあ、忘れてた。当初唯一と言っていい味方だったチーフも懐かしい。宇宙船のコールサインのエピソードはグッと来た。短いながらも星町も拾ってくれるとは嬉しい。中継は結局どこだったんだろう。宇宙への挑戦を裏方から見るもう一組の主人公だったバードとカイエ。今回も必死にギリギリの挑戦をしていた彼ら。この情熱が宇宙船を飛ばしてくれるんだと思うと胸が熱くなる。それに吸血鬼=差別への一つの答えを見せてくれた。
もちろん、その中にはレフとイリナも。
ギクシャクしたまま飛ぶことは無いとは思っていたけど、やっとか君たち。月への憧れの原点を思い出し、素直になった二人にしばしのニヤニヤ。
そして迎えた月面着陸挑戦本番。
史実とは大きく外れた完全フィクションになっているので、物語的にいきなり爆発四散なんてことはないのは分かっていても、手に汗握る状況の連続。そんな中で月に対する恐怖や、地球の美しさへの感動に宇宙を強く感じられた。
そして、、、え? ああ、ここで終わりか。
直前の月面着陸が緊迫のシーンの連続でずっと緊張していて、その後の物思いに耽るイリナで、余韻を味わいつつクールダウンしていたら突然の幕切れ。残りページを気にしないくらい集中していたみたいだ。
帰還後を描くのは野暮なのは分かるし、指輪に付ける月の宝石のシーンは確かにクライマックスに相応しい最高のシーンだったけど、でもせめて地球帰還へのエンジン点火くらいまでは行って欲しかったというのが本音。ここで切られるとバッドエンドルートへの分岐が多すぎて嫌な想像をしてしまう。
それでも、美しく感動の最終巻なのは間違いない。
宇宙開発黎明期の技術的な難しさ、冷戦という政治的にも厳しい時代、吸血鬼という差別の対象と、いくつもの枷をかけられながらも、子供の頃に見た夢を諦めずに追い続け、見事に掴んでみせたロマン溢れる物語だった。名作です。