いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「凜として弓を引く」碧野圭(講談社文庫)

高校入学目前、矢口楓がふと足を踏み入れた神社の片隅にみつけた弓道場。おとなたちに交じって弦音(つるね)を響かせる少年の凛々しい姿に魅せられ、そこの弓道会に入門することに。人見知りの女子高生が日本古来の弓道の奥深い魅力に目覚め、新しい世界の扉を開いていく青春エンタテインメント小説!


ふとしたきかっかけで弓道に出会い、習い始めることになった高1少女の物語。
まったくの素人の主人公と一緒に弓道のイロハを体験していく弓道入門のような小説。道具や競技の進め方だけでなく、歩き方やお辞儀一つに至るまで懇切丁寧に解説してくれるので、経験がなくても状況が分かりやすい。作中に引用があるのだが『弓道教本』の内容が文章が古めかしくかつスピリチュアルで「何言ってんだこいつ」状態なので、教本よりも分かりやすいかも? 弓道が神事なのは理解しているけど「神人合一」とか「宇宙」とか言われてもねえ(^^; 
また、神社内の弓道場の教室が舞台で、無口な同い年の美少女、オタクなフランス人留学生、還暦を過ぎてから趣味として始めたおばさんなど、老若男女バラバラな同期達と交流しならが弓道を学んでいくのが特徴。
みんなで目標に向かってという情熱や、上下関係の厳しさと若者らしい高潔さからくる軋轢のようなギスギスした空気はなく、大人が多いので全体的には大らかな雰囲気。その分、それぞれの持つ事情が複雑な、高校の部活とは一味違った人間ドラマになっている。
というわけで、初めての弓道に年齢や人種が違って高校生が普段接点がない人たちと、主人公が様々な未知に触れて色々なことを感じていく物語で、思っていた青春とは違ったけれど、これも一つの青春の形か。弓道らしい落ち着いた雰囲気もよく、面白かった。個人的な好みを言えば、弓道特有の張り詰めた空気感があまり味わえなかったのは残念だったが、主人公が素人ではそこを求めるのは酷か。
帯に新シリーズとあるので続くのかな?
主人公の楓がよく言えば大人の説教に素直に耳を傾けられるいい子で、悪く言えば人の意見に流されやすい芯のない子なので、彼女が弓道を通じて一本の芯を獲得する成長の物語になるのではと、勝手に想像している。