いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Another side story 三島柚葉」しめさば(角川スニーカー文庫)

三島柚葉はずっと片想いをしている。片思いの相手である吉田の家に同居していた女子高生は、少し前に北海道へ帰った。しかしいつまで経っても心ここに在らずの吉田に呆れた三島は、残業上がりに強引にレイトショーへと連れ出した。
映画に感情移入して涙を流す三島に、吉田は「お前みたいにはできないな」と他人事のように呟く。人の心にズカズカ入り込んでくるくせに、いつまでも無関係な脇役のつもりでいる、ずるい人。その鈍感さに焦れた三島は不意に彼の唇を奪って……。
「どうしてこんな人、好きになっちゃったんだろ……」
三島柚葉の恋の終わりを描く、外伝。


最終巻のエピローグの前。沙優が北海道に帰った直後の日常が主に三島視点で語られるサイドストーリー。……って、ifの物語じゃないのか!? 
言動の中途半端さが大嫌いなのに、気持ちが自分へは向かないことは分かっているのに、どうしてか惹かれてしまう自分では制御できない感情。傷つけたくないのにこぼれてしまう言葉。ままならない恋心が繊細に丁寧に描かれている、変な言い方だが極上の失恋ストーリーだった。
それだけでも切ないのに、三島ちゃんはこの作品で最も思考が理解できる、共感しやすいキャラクターなので、彼女が涙に暮れるストーリーは輪を掛けて辛いものだった。
だから、鈍感で無防備でナチュラルに的確に三島の傷を抉っていく吉田の姿に多少ムカついても仕方がないと思うんだ。他人の気持ち間違いなく理解するなんて土台無理な話だとは解っているけれど、それにしても吉田は一発ぶん殴りたくなるほど無神経だ。誰がどう見たって間に火花が散りまくっている後藤・神田の初プライベート会話を、仲が良さそうとか言い出した時は「ダメだこいつ」と素で呟いてしまった。おかげで本編が終わってもう落ちることがないと思っていた吉田株がさらに大暴落することに。
いやホント、なんでこんな奴の為に他人の気持ちばかり考えてしまう優しくていい子が泣かなければならないのか。
叶わない恋の終わり、失恋の切なさフルスロットルな物語。とてもよかった。リスタートが切れた三島ちゃんにいい出会いがあることを願って。でもこういう子に限って変な男に捕まるんだよなあ。