いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「青のアウトライン 天才の描く世界を凡人が塗りかえる方法」日日綴郎(富士見ファンタジア文庫)

『見惚れる』『圧倒される』『中毒性がある』『心奪われる』
彼女の描いた絵を見た誰もが抱く感想の数々は、画家を志す高校生の俺にとって、喉から手が出るほど欲しいものだった。
何を描かせても“天才”と称される、芸術少女・柏崎侑里。
「ただ顔を見に来ただけ。絵は、描きたいときにしか描かない」
一番近くて一番遠い場所にいる、俺の幼馴染だ。ある日から絵を描かなくなった彼女の影を追い、俺は絵筆を振るい続ける。
「何度だって描いてやる。才能を言い訳に、諦めたりはしない」
侑里に再び絵を描かせ、俺の絵で彼女を見返す、その日まで。
これは、青春を絵筆に捧げた凡人が“天才”に挑む物語だ。

第34回ファンタジア大賞橘公司特別賞>受賞作



描く気がない天才少女と、その隣で描き続ける凡人の少年の絵画を巡る青春小説。
青春時代の輝かしい面ばかりではなく、嫉妬や劣等感などの負の面まで書いた、むしろ負の面を前面に押し出した、一般小説ではよくあるがライトノベルでは珍しい作品。
いつも隣にいる気まぐれな天才の幼馴染みに、劣等感で押しつぶされそうなのに、それでも大好きな絵を描くことはうやめられない。その才能に嫉妬で狂いそうなのに、目が離せない憧れは止められない。そんな憤り、ままならなさ、葛藤がよく出ていた。そこにもう一人の幼馴染みと美人な先輩を加えた四人の微妙な関係が交わって、濃い青春模様を見せてくれる。
その人間模様を見せてくれたキャラクターたちが本作最大の長所。
負の感情を多く持ちながらも腐らず直向きな主人公からは誠実さと一生懸命さが伝わってくる。3人のヒロインたちも、ただ可愛いだけでなく短所までちゃんとが描かれているので、それぞれに違った魅力が感じられる。まあ天才ちゃんは短所ばっかりだったけどw どのキャラクターにも人間味があるというか、血が通っている気がする。
逆に短所は文章。
地の文が極めて説明的で平坦。説明が無駄に多くてテンポが悪いのと、悲しいシーンでも盛り上がるシーンでも同じ調子で抑揚が感じられない。
それと感情表現が直接的すぎる。気持ちが晴れている/沈んでいる/イライラしているをそのままの言葉で書くのは、小説としてどうだろう。雪深い北海道の田舎で夜空が重要テーマなのだから、それらを使って心情を比喩する情景描写がやり易い状況だったのだけど。
文章がそんな調子なので、今一つ気持ちが乗らないというか、物語に入り込めないというか。なんとも勿体ない。
キャラクター:優 ストーリー:良 文章:辛うじて可 てな感じの、光るところがありつつ拙さも見える新人賞らしい作品だった。