いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「姫騎士様のヒモ」白金透(電撃文庫)

「マシュー、お前は私にとって大切な命綱だ」
灰と混沌の迷宮都市。あまたの財宝を狙う害虫が集う、そんな街に咲く深紅の花が姫騎士・アルウィン。王国再興を志すダンジョン攻略の急先鋒――そして彼女に集る元冒険者・マシューは、この街に数いる害虫の一人だ。仕事もせず喧嘩も弱い腰抜け、もらった小遣いを酒と博打で浪費するクズ、そう人は罵る。
しかし、彼の本当の姿を知る者はこの街にはいない。それは、姫騎士様さえも。
「お前は俺の彼女の害になる――だから殺す」
悪徳の迷宮都市を舞台にして、一人の『ヒモ』とその飼い主の生き様を描く、衝撃の異世界ノワール!

第28回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作


呪いで力が封じられた元冒険者が、王国再興の為ダンジョンの秘宝を目指す姫のヒモをしながら、迷宮都市の裏社会で意地汚く強く生きるアウトローなダークファンタジー。ダンジョンが傍にありながらダンジョンは一切出てこない。都市の暗部、裏社会での生活・事件を描いた作品。

これは、、、
もの凄く読む人を選ぶ作品。これに大賞を出すのか、思い切ったな電撃文庫
ファンタジーで、ライトノベルで、ハードボイルドをやり切った意欲作なのは間違いない。
ダンジョンとは違う意味で死と隣り合わせの裏社会を、力を封じられた男が這いつくばりながら懸命に生き、その中で自分の正義、男の矜持を貫いていく。その人間臭さと男臭さはハードボイルド好きとしてはグッとくるところ。
しかし、とんでもなく人の命が安く、血生臭い表現が多く、堕ちた人間が幸せになれるわけがないだろうと言わんばかりの胸糞悪さを詰め込んだ事件の顛末には、相容れないものを感じた。
紫煙と硝煙の匂いがするハードボイルドは大好物だけど、本作には血の匂いと歓楽街特有の饐えた匂いが漂っていて、はっきり言って苦手なタイプだ。
でも、その匂いを感じさせる表現力がある時点で新人作として抜けた存在で、だからこそ大賞なのだろう。
良くも悪くも予想外の大賞作品で、刺激的な読書時間だった。