いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「紙屋ふじさき記念館 春霞の小箱」ほしおさなえ(角川文庫)

紙屋ふじさき記念館の閉館まであと半年と少し。夏休みのサークル遠足で紙の産地・東秩父と小川町を訪れたり、正月の「楮(かず)かしき」に参加したりするうちに、百花は作家だった父が民藝運動に関心を持っていたと知る。人の手が生み出すものの良さと伝え続けることのむずかしさに思いを馳せる百花。記念館の閉館イベントの準備、川越の墨流し職人とのワークショップや三日月堂との活版冊子作りの企画が進むなか、予想外の事態が。


記念館の閉館が迫る中、満足な終わりを迎えるために、またその後の仕事に繋げる為にも、和紙に関する知識を得ようと百花が積極的に動き回るシリーズ第5弾。
紙漉きに染め紙、墨流しに楮かしき。出てきた和紙に関する技術や体験が、どれも道具が必要で百花が気軽に家で試してみることが出来ないタイプなのもあって、いつも以上に和紙作り体験記の色の濃い話だった。
その体験レポートも興味をそそられるものだったのだけど、それ以上に惹かれたのが歴史。これまではものづくりのさわりと消えゆく現状を紹介する話が多かったが、今回はそれに加えて、作り手が搾取されてきた歴史、戦争で使われ優秀さゆえに生まれた悲劇など、負の歴史も紹介していたのが興味深かった。
また、前回以上にがっつり三日月堂が関わってきているのが『活版印刷日月堂』ファンには嬉しいところ。弓子さんが藤崎一族の人たちと交流している姿が、なんだかこそばゆい。
ただ、今回は百花の発想で生まれる新製品や新規格などはなく、藤崎に至っては出番自体がかなり少なく、登場人物たちに変化や成長を見守る物語としては物足りない。
……と思っていたら、衝撃のラストが待っていた。
記念館の終わりが近づいているのに、随分スピーディかつ淡々と進んでいたのは、これが念頭にあったからか。
記念館が不本意な形で閉館してしまい、さらに百花も藤崎も望まぬ立場に立たされそうな状況。百花がここからどう考えどう行動するのか、次回が楽しみ。