いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「レンジャー・ガール! 女性自衛官・小牧陽は地獄を這い進む」綾坂キョウ(富士見L文庫)

初の「女性レンジャー」に憧れる自衛官・陽<アキラ>のテンションは最高潮だった。遂にレンジャーの訓練へ参加できるのだ。全国の隊員たちの中で8%しか存在しない、正に少数精鋭。だがそこには90日間の地獄の訓練が待っていた――。
陽はまるで鉄の女・ミズキとバディを組むことになる。諍いばかりの二人だが、ミズキにも密かな夢があった。そんな同期や鬼教官らと共に試練に挑む中、仲間たちは次々に脱落していく。皆から思いを託され、陽はレンジャーを目指すが……!? 涙と汗と泥まみれの青春自衛隊ストーリー!


女性初のレンジャーを目指す女性自衛官の涙と根性の物語。
ポジティブ少女(24歳と少女という年齢ではないのだけど、明るくて裏表のない猪突猛進ガールなので少女のイメージが強い主人公)が三ヵ月に及ぶ地獄のレンジャー訓練に挑む! 

有事の際には国防の最前線に立つことになるレンジャー隊員。その選ばれし者になる訓練は、想像を絶するものだった。フィクションなので過剰な部分、これでもぬるい部分があるのは分かっているが、それでも『地獄』の二文字に相応しい、肉体的にも精神的にも限界を突破し、訓練なのに『死』が間近に見える壮絶な試練に言葉を無くす。
そんな地獄の中で、女性でしかも小柄という身体的な不利を抱えながらも耐え抜く主人公の不屈の精神と、極限状態で交差する人間模様に胸を打たれる。男性隊員からの偏見・反発・見下し、もう一人の女性隊員との不仲とマイナスから始まる人間関係が、友情や愛情なんて生易しいと思わせる、命を預けられる信頼までに育まれていく過程が涙無くしては読めない。特に後半は、主要人物一人一人のキャラクターが掘り下げられているので、あっちにもこっちにも感情移入してしまってもう大変。
その訓練生たちと一緒に、地獄を強いる鬼教官たちのキャラクターも掘り下げられているのがズルい。こんな陽気で気のいい素顔を見せられたら、ヘイトを向けたくても向けられないじゃない。
こういう言い方は失礼だが、四季童子先生のフルメタを思い起こさせる表紙に惹かれて買ったら、思いがけず心振るわす良作に出会ってしまった。