いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「学園の聖女が俺の隣で黒魔術をしています」和泉弐式(電撃文庫)

なにが青春だ。どいつもこいつも、恋だの部活だの遊びだの、楽しそうにしやがって。俺には友達もいない。恋人もいない。部活にだって入ってない。青春なんてくそだっ。――そう思っていた。彼女に出会うまでは。

汚れた階段。床が抜けそうな木張りの廊下。そんな古びた無人の旧校舎に、冥先輩がいた。黒い三角帽子とローブをまとい、黒魔術で人を呪うことに余念がない。耳にかかる艷やかな髪をかきあげ、海のように深い瞳で俺を見て、はにかむ。
「呪っちゃうからね」
空が青く澄みわたり、桜舞う春。入学したばかりの高校で巡り会った、あの無垢な笑顔を、大人になった今も俺は忘れられない。


ミッション系の高校で、影が薄くクラスメイトにも認識されていないボッチな新入生・上賀茂京四郎が、周りには聖女と呼ばれながらも裏では黒魔術をやっている上級生・沙倉冥に出会ったことから始まる学園青春ストーリー。
黒魔術というなかなかのパワーワードに、評判と実態の差が激しい残念美少女二人のダブルヒロイン、懐かしさを感じるヘンテコ部活ものと、どうみてもドタバタラブコメが始まりそうなシチュエーションだったのに、青春×友情に全振りした話が出てきて驚いた。
冥は黒魔術というから根暗な少女かと思えば、明るくてやや天然で面倒見のいいお姉さん。もう一人のヒロイン・凛は、ずば抜けた頭脳の所為で周りから浮いてしまった寂しがり屋。京四郎はボッチ主人公によくある卑屈さがまるでない、自分が傷つくことを厭わない優しい好青年。メインの三人がみんないい子なので、作品全体に優しい空気が流れている。
そんな彼らが繰り広げる、普段は遠慮しすぎて思い切った時はやり過ぎる、友だちが少ないが故に距離感がバグっている不器用な友情がもどかしくて愛おしい。
色物設定の学園ラブコメのつもりで読み始めたので初めはやや面食らったが、ピュアで誠実さが感じられる物語でとても良かった。
今のところ、恋の気配はエピローグのほんの少しだけだが、ここから大人なオープニングに繋がる“ラブ”に変わっていく過程が気になるところ。