いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「異世界居酒屋「のぶ」七杯目」蝉川夏哉(宝島社文庫)

生真面目な徴税請負人、ゲーアノートが小さな女の子を連れて居酒屋「のぶ」へとやってきた。彼はこの少女、ヘンリエッタを保護したというが、どうも素性がよくわからないという。身なりも行儀もいい、この少女の正体は……? 冬の古都では、新たな運河を拓く事業で人が集まっている。市参事会も水運ギルドも、新婚の侯爵であるアルヌも、自らの役割を全うしていく。人と人を、小さな居酒屋の酒と肴が繋いでいく物語。


運河の新設を目前に人が集まってきた古都だが、居酒屋「のぶ」は通常営業。そんな中、徴税請負人ゲーアノートが保護した少女を連れてきて……な感じで始まるシリーズ第7巻。
堅物親父の不器用な優しさに心を開いていく訳有り少女、少女の健気さに中てられる堅物親父。定番の構図だけど、定番だからこその良さがある。そこに彩を添えるのが少女の涙。悲し/悔し涙から、嬉し泣きになり、最後は別れの寂しい涙へ。やっぱり少女の涙は絵になるなと(文章だけど)。特にヘンリエッタ嬢のような正義感の強いしっかりした子だと余計に。
そんな堅物中年と少女の心の交流を描いたところは良かったのだけど、7巻全体としてはちょっと政治色が強すぎた。
運河の新設の是非と利権を争う貴族や組織のお偉方の話ばかりが大きく扱われていて、素朴な人情味のある話が少ない。それに当然客も裕福な人たちばかりになるので、「のぶ」の料理に感動する描写も少ない。
『アジな組み合わせ』みたいな高貴な人が庶民の味を品なくがっつく話も悪くないが、汗水垂らして働いた庶民の至福の一杯や、偶然入った旅人が料理に舌鼓を打つ一期一会で素敵な出会いなど、下町の小さな居酒屋らしい話が好きなので、そういう意味では今回は物足りない。
そんなわけで、料理に集中している時が少なく、飯テロ力は残念な巻だったのが、そんな中で唯一腹の虫が刺激されたのが『ねぎまみれの日』。豊作過ぎて余ったネギをふんだんに使うネギ尽くしはネギ好きにはたまらない。ネギダレたっぷりの唐揚げはある意味凶器。
運河問題は片付いたし、次は日常の話に戻ってくるかな?